お気楽批判の続きの続き

なんか議論ではない別の何かのような気がしますけれども、乗りかかった船なので。
前回同様福田::漂泊言論 - FC2 BLOG パスワード認証からの引用。

頑なに現状維持を守ろうとする現状維持派との温度差の違い、つまり問題を深刻に捉えるかお気楽に捉えるかの違いを説明しました。

現状維持がどの点についてなのか。頑なにってのはどのあたりを指しているのか、そういう部分がわからないとどうしようもないのだけれども、僕がお気楽と言っているのは深刻度とはあまり関係ありません。問題によっては深刻だと思うし、それ以外はお気楽。あるカテゴリーの問題に対して、全体を通したムードはあるにせよ、個別の問題については個別の深刻度を持っているものですね。これ大前提。

むしろ不当にプライバシーが侵害された場合、共通IDシステムにおいてはその侵害情報の発信者を容易に特定可能であるという点で(特定できない場合は特定電気通信役務提供者が責務を負う)、現状よりは遙かに救済的性質を有していると見るべきでしょう。したがって逆に言えば現状維持派こそ、プライバシーに関して「も」お気楽であると言えると思います。

何に対しての救済的性質なのですか?それは実名を出されることに対してなのでしょうか。例えば、本人の手に因らず、個人情報を書き込まれてしまうようなことは悪質な嫌がらせですが、それに対しては、確かにそうかもしれません。が、匿名の人が匿名でいることは、自分のプライバシーに敏感だからであって、決して他人のプライバシーを侵害しようとしているわけではありません(一部の悪質な人はここでは例外として)。だから、お気楽というのではなく、むしろそこに関しては気を使ってますよね。簡単に実名を出せってっている方が、そのことによるプライバシーの危機に対してお気楽であるように思えます*1

「共通ID構想」を「法によって発信者の実名がブラウザ画面に表示されるようなシステム」だと誤解なさっているように思います。そうではありません。「共通ID構想」においては本人確認が行われていない「匿名」は許容されていませんが、本人確認が行われている「匿名(つまり「仮名」)」は許容されていますから、あらゆる「匿名」が排除されるという話ではない点に注意すべきです。

実現性はともかくとして、この部分についてはそれなりに認められていると思います。小倉先生も実名の話を出さなければそこまで言われなかったかも知れませんね。もはや、共通ID対真の匿名ではなく、実名対トレーサビリティーのある匿名の話になっていることに注意すべきだと思います。

(2)海外鯖からいくらでも攻撃できてしまう。身元の隠蔽を防ぎたいなら全世界的に導入しないと実効性がない。
「海外鯖からいくらでも攻撃」というのは所謂プロクシサーバのことを指しているのでしょうか。だとすれば「いくらでも攻撃できてしまう」というのは間違いです。共通IDシステムにおいては利用者特定にIPアドレス&タイムスタンプ方式ではなくID&パスワード方式を採用していますから、プロクシサーバを経由しようがネットカフェからアクセスしようがあまり関係ありません。

そら違うでしょ。攻撃ってのは言論としての攻撃の話で、海外に拠点を持つサービスで攻撃をしたら制御が及ばないよねって言っているだけでしょ。例えば、del.icio.usでのネガティブコメントを日本の法律で制御できるかって話で。日本だけの共通IDをそこで使えるわけは無く、かといって海外のサービスを一切使わせませんって言ったら海外通販もろくに出来なくなるわけで。

(3)「ならでは」の危険性を提示する必要は無く、一般的な危険性によって十分である。でないと「新しい発想だから既存の穴はあっても構わない」と帰結してしまう。
「一般的な危険性の指摘」というのは運用する上での「気をつけていくべき点」としては大いに参考にはなりますが、運用そのものを断念せざるを得ないほど強い根拠とはなり得ないでしょう(もちろん「穴はあっても構わない」などとは考えていません。可能な限り回避するべきでしょう)。そうでないと「個人情報を扱う事業というのは、なりすましや漏洩を完全に回避できないわけだから今後一切進めるべきではない」という話に帰結してしまいます。

そういう話には帰結しません。そもそも、なんでなり得ないかの説明がありませんので納得できません。単に、小倉先生の案は穴がありすぎるって言っているだけであって、その穴が既存の危険性であるかどうかは問題ではありません。だいたい、可能な限り回避する、というのが目に見えて難しいということが強い根拠になりえます。

(4)「事後救済」としての機能は現状で十分である。
実は十分ではないんです。現状では発信者情報を開示して貰うために開示請求訴訟を起こさなければならなかったりします。場合によっては発信者情報を得るためだけにコンテンツプロバイダとアクセスプロバイダを相手に二回訴訟を起こさなければならないこともあります(発信者に対する訴訟を併せれば計三回も!)。さらにログが残っていなかったら為す術もありません。全く十分ではないでしょう。

十分ではないのには同感です。が、共通IDは(実現性は別として)ともかく、実名にすべし、という考え方は、事後救済以前に回復不能なダメージを受けてしまう可能性が高く、事後救済なんて言っても意味があまりない(ダメージそのものが救済されるわけではありませんからね)という話です。
そこを十分にしていくのは今後の課題ですけれども、実名にすれば万事解決!という訳には行かないというのは、様々な人が指摘している通りです。

どうもですね、全体的に話している内容の認識について、それほど差異があるとは思えないのですが、方法論とか世界観に決定的な差異があるような気がしています。

*1:このことは、十分に注意できるある程度ウェブとはなんぞやということがわかっている人に対してはそうではないと思います。が、小倉先生は、初心者にこそ、と言い放った。これは容認し難い話です