娯楽はパイの奪い合い

前にも書いた気がするけど、娯楽なんてものは、ごく限られた消費者と言うリソースをいかに獲得するかの競争であり、市場規模はある程度固定化される。消費者が費やすお金は景気にも左右されるけれど、インフレにならない限り、全体の売上は頭打ちになる。メディア業界はもう十分に成熟していて、のびしろはなくなってきているのかもしれない。
こういった状況で必要なのは、商品の付加価値を上げ、単価を上げる戦略。もちろん、これもパイの奪い合いには違いない。けれども、フリーライダーに売上そのものを奪われたのが本当であれば、減ったパイを増やすことはできるかもしれない。
業界が本当に恐れているのは、違法ダウンロードそのものではなく娯楽に費やす時間と、かけるお金がインターネットに奪われていることだ。違法なものは氷山の一角に過ぎない。インターネットには魅力的で中毒性のあるコンテンツが溢れている。お金は掛からない。余ったお金は別の娯楽、食や服や旅行に費やされるかもしれない。パイは奪われた。
映像や音楽は移動中の娯楽に成り下がり、消費される。元々それだけの価値しかなかったのかもしれない。一方で、ロングテール的な展開を可能にするシステムで、ニッチなパイまで奪われる。こんな状況ではフリーライダーに文句の一つも言いたくなるのはわからないでもない。
しかし、業界は、付加価値の創出を選択せず、税金的な発想をその代替にしようとしている。これでは消費材としても生き残れない。もっとも、本当に価値のあるものは残ることだろう。
いや、長い目でみれば、インターネットに広がるコンテンツの山の大部分も無価値だ。商業コンテンツの大部分が無価値なのと同様に。時間の隙間を埋めるだけのコンテンツの価値は刹那的な感動でしかないのかもしれない。であるならば、美食と何の違いがあろうか。
インターネットとのコンテンツ戦争に敗れた業界。しかし、勝者には財力も政治力もなかった。それを突くのがアンフェアとの謗りを受けようが、なりふり構ってはいられないのだ。既に他の業界に奪われたパイを取り戻すことは、ブームの創出でも行わないと有り得ない。そのためには完全に制御できる仕掛けが必要だ。ついでに映像・音楽以外のコンテンツを枯らすことができれば、それに越したことはない。
ウェブ側の勢力が政治的なパワーを発揮するためには、フリーライダーは敵かもしれない。そのシステムは最後には財力を成さねばなるまい。決してインフラはただでは発生しないのであるから、業界を否定するのであれば、自重は必要だろう。
すでに財をなし、コンテンツの支配者として君臨しつつある巨人がいる。ウェブは飲み込まれつつあるし、飲み込まれてしまえば既存の業界などひとたまりもない。政治力と資金力を手に入れたウェブが向かう先はどこか。見誤ったところにはパイのひとかけらも回って来たりはしない。