虎よ、虎よ! / アルフレッド・ベスター

言うまでもないSFのもはや古典な名作ですが、読んでなかった。つい最近新装版が出たのでこれを機に購入してみました。あれかな、「ジャンパー」という道具立てが似たようなSFが映画化されたからかなぁ。それとも「ゴーレム100」の刊行のおかげか。
未来。テレポーテーションの能力を得た人類。"ジョウント"と名づけられたそれは人類の社会を大きく変えた…
と来たら、大体テレポーテーションを主題に宇宙を股に翔る冒険が始まりそうなものですが、この豪華絢爛なプロローグで示される当たり前になったテレポーテーション能力はあくまで小道具の提示であるというのがいきなりすごい。
事故で漂流する宇宙船。ただ一人生き残った主人公は、ほとんど死んだような状況で宇宙船が通りかかるのを発見する。しかし、その宇宙船は、明らかに主人公を認識したにも関わらず、見捨てて去ってしまう。ここからその宇宙船に対する復讐の旅が始まるのであった…
そんな話になってしまうのですよ。そして、復讐の鬼と化した主人公、主人公を追う集団と漂流した宇宙船の謎、地球と外惑星の争いの裏に潜む何か…一つ一つの筋がそれだけでも小説ひとつになりそうですが、惜しげもなく詰め込まれ、かき混ぜられ、原型を留めていないようでそうでもない。筋が通っているようで通ってなくて、しかし、最後に収束していく様は常人には書けないテクニックとサービス精神のなせる業でしょうか。目の前が変貌を遂げる様はP.K.ディックの豪華版のよう。小道具でしかなかった"ジョウント"すら、姿かたちを変え、我々の前に、物語の核として姿を見せていたことに気付きます。
これは既に一つの体験かも知れない。噂に違わぬ傑作です。
こうなったらやっぱり次はこれを読まなくてはならないですね。
ゴーレム 100 (未来の文学)

ゴーレム 100 (未来の文学)