ここがへんだよ著作権3〜ちょっと横道、オーストラリアの著作権法改正について

音楽デバイスを所有することすら許されない荒廃した世界。北斗の拳的(一般的には何的なんだろう)終末イメージではなく、現実の世界のお話。
ITmedia News:MP3プレーヤー所有が犯罪に? 豪著作権法案に批判

オーストラリアで提出された新たな著作権法案は、刑事犯罪となる侵害行為の基準を大幅に引き下げており、MP3プレーヤーなどのデバイスを所有したり、お気に入りの曲に合わせて自分で歌っている映像をWebにアップロードする行為が重罰につながる恐れがあるとの憶測を呼んでいる。この法案に批判的な向きはこう指摘している。(中略)問題の法案は、著作権侵害に利用する意図を持ってデバイスを所有することを、起訴の対象になる違法行為――司法制度の下で裁かれなくてはならない――と定めている。刑罰は最高で5年の禁固刑と罰金6万5000豪ドル(5万米ドル)になると、Sydney Morning Heraldは報じている。(中略)「想像してみてほしい。14歳の少女が、お気に入りのポップスに合わせて歌うまねをしている様子をビデオに撮って、それをYouTubeのような動画共有サイトにアップロードしたらどうなるか」とフィッツジェラルド氏は10月26日のline OpinionのWebサイトへの投稿の中で述べている。「この新たな法制の下では、そのようなことをしただけで、現実に多額の罰金を科される可能性がある。その行為に怠慢や未必の故意があったと示された場合、14歳の少女はさらなる問題を抱えることになるかもしれない」(同氏)

ところで、わが日本ではどうなのかと言うと

第百十九条 次の各号のいずれかに該当する者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
  一 著作者人格権著作権、出版権、実演家人格権又は著作隣接権を侵害した者(第三十条第一項(第百二条第一項において準用する場合を含む。)に定める私的使用の目的をもつて自ら著作物若しくは実演等の複製を行つた者、第百十三条第三項の規定により著作者人格権著作権、実演家人格権若しくは著作隣接権(同条第四項の規定により著作隣接権とみなされる権利を含む。第百二十条の二第三号において同じ。)を侵害する行為とみなされる行為を行つた者又は第百十三条第五項の規定により著作権若しくは著作隣接権を侵害する行為とみなされる行為を行った者を除く。)
(略)
第百二十条の二 次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
  一 技術的保護手段の回避を行うことを専らその機能とする装置(当該装置の部品一式であつて容易に組み立てることができるものを含む。)若しくは技術的保護手段の回避を行うことを専らその機能とするプログラムの複製物を公衆に譲渡し、若しくは貸与し、公衆への譲渡若しくは貸与の目的をもつて製造し、輸入し、若しくは所持し、若しくは公衆の使用に供し、又は当該プログラムを公衆送信し、若しくは送信可能化した者
(後略)

とあります。おー、やっぱり懲役刑じゃん。しかし、第三十条に定めるとおり私的利用はOKになっています*1。日本では私的利用の枠を超えたかどうかが議論の中心になることが多いですね*2
私的利用の定義については別途触れようと思いますが、そんなわけで、日本ではMP3プレイヤーの利用は私的利用と見做されるので捕まることは無いと思いますが、代わりにデジタル機器の私的録音保証金があるわけです。ちなみにYouTubeの件に関しては、著作権者がどんなに「あれはいいよ、かわいいねー」と言っても著作権の委託先であるJASRACが勝手に訴えて消させてくれちゃいます。そういうのが嫌ならJASRACには委託しないように。さて、オーストラリアと著作権と言えば、こんな話もあったのですが、結局2004年に延長が決定し、オーストラリアのプロジェクト・グーテンベルクも頓挫してしまったようです*3。今回の法改正の詳細がどのようなものであるかは元記事を読んでもよくわからなかったのですが、私的利用の定義がきちんとなされていなくて、運用により容易に刑事罰が適用される状態になってしまうのであれば、オーストラリアの音楽文化(輸入も含めて)は業界の意図に反して荒廃するのではないでしょうか。
以下感想です。音楽に限らず、著作物を広めることを制限する(錬金術の秘法のように隠していくような物です)必要はあるのでしょうか。印刷物が正規のものか区別がつかないから、本屋で厳重に封をされて、家の特定の場所でしか開かないとしたら、誰が本を買うのでしょうか。確かにかつてはポータブルな再生デバイスはありませんでした。その頃のマーケットに戻るのか。いや、いっそのこと、録音できなければいいじゃないか。コンサートを開ける一握りのアーチストしか生き残れない時代。あれ、それだとレコード会社は儲かりませんね。厳重にコントロールをすることで、既得権益を守ると言う発想は、流通を阻害し、自分の首を絞めるだけだと思うのですが。
権利の囲い込みは、結局のところ絵を天国まで持っていくから一緒に火葬する財産家のと同じ発想に思えて仕方がありません*4

*1:上記の通り、第一項の目的はNG

*2:マンションで住民用予約サーバーサービスにNGが出たりとかしましたね

*3:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%91%97%E4%BD%9C%E6%A8%A9%E5%BB%B6%E9%95%B7%E6%B3%95

*4:著作者本人が失敗作の始末としてやるならともかくね