フィクションにまどろむ

id:kaien氏が銀英伝のレビューを。

およそ、日本のキャラクタ小説で、この作品を超えるものは存在しないと思う*1。単純に商業的側面だけを見ても、正編全10巻だけで1000万部を超えるセールスを記録している。日本出版史上屈指のベストセラーなのである。

http://d.hatena.ne.jp/kaien/20070816/p2

そんなに売れてたのか…これだけ売れると売るための小説を書く気がなくなって、アレとかアレとかアレが完結しないわけだ。
正直なところ、ものすごく感傷的なセリフでいっぱいな、政治に対する姿勢が(後の創竜伝に比べれば全然とはいえ)、単純な善悪に堕ちない様な態度を取るように見えてその実断罪的であったりする、つまり、青臭い(良く言えば若々しい)ものに満ち溢れた小説で、僕はこれは中高生が相対すべきものだと思う。とはいえ、ナイーブな精神でこれに触れると悪い意味で影響されすぎてしまって後を引くかも知れないけれど。
ただ、古今のダメ政治やダメ軍事の凡例を詰め込んであるこれは、ある種のダメ基準を形作る役には立つんじゃないかと思う。およそ冒険活劇なフィクションは、こちら側は意味もなく潜在能力を持ち、相手方は限りなく間抜けだ。しかし銀英伝においては、かたや全力でダメ政治を行い、かたや全力で後の不幸の火種を蒔き続ける。いっそ清清しい人間の本性が垣間見える。
ブクマコメントでI11氏が「フィクションにまどろむだけで現実と向き合う気が無い怠惰な人におすすめの「銀英伝」」とコメントされている。確かにある意味でその通り。現実から離れた一つの世界に、現実に対して心がもつれたときに、人それぞれの理由で入り込むのがフィクションでありエンターテイメントだとしたら、最大の賛辞ともいえる。