否定的な言葉とその印象と

Google八分という言葉はそもそも〜八分というのに若干そぐわないものではあると思います。大辞林によると

(1)江戸時代以来、村落で行われた制裁の一。規約違反などにより村の秩序を乱した者やその家族に対して、村民全部が申し合わせて絶交するもの。俗に、葬式と火災の二つの場合を例外とするからという。
(2)仲間はずれにすること。

ちなみに、2分が例外だ、というのは俗説で、語源かどうかはわからないと言われています。村八分の原義的には「相手が悪いから絶交」というニュアンスがありつつ、仲間はずれすること自体には少し後ろ暗いイメージを感じますね。
さて、小倉先生がBeyond氏となにやらもめている訳ですが…ブクマより。

2007年08月20日 OguraHideo ↓特定の実在の人物の氏名を明示しつつ、その者が特定の犯罪を犯している旨の事実摘示を何らの根拠も提示せずに行っているもの等。ネットを「人を困らせて遊ぶエンターテインメント」だとするとそんなの当然ですか?
2007年08月20日 NOV1975 論理 小倉先生の「あまりに酷いもの」の概念が知りたいぞ。

はてなブックマーク - Beyondさんが「「集合知の議論」として、あまりに酷い場合のことを聞いていた」とはつゆ知らず: la_causette

これは小倉先生の「しかし、Googleにもソーシャルブックマークにもノイズをフィルタリングする機能などありません(Googleの場合、あまりに酷いものについては「Google八分」をしてくれる場合がありますが。)」という発言を受けた一連の議論についてですが、小倉先生の「〜してくれる」という言葉はGoogle八分は肯定的な行為だ、という認識を示しています(でないとしてくれる、すなわちこちら側が何かありがたいことを享受できるという言葉にはなりませんから)。ここではノイズをフィルタリングする機能があるかないかについてには触れません。ただ、流れ上、Google八分はノイズのフィルタリングだ、と言う話になっていることには注意しておきます*1
で、小倉先生の「あまりに酷いもの」はつまり実在の人物に対する故無き誹謗中傷、ってことですね。
さて、今、小倉先生が提示した話は至極真っ当な通常の感覚を示しています。ではなぜ揉め事になるのか。Google八分という言葉は未踏プロジェクトでそれを避ける仕組みが採択されている(これはBeyond氏のプロジェクトですね)ことからもわかる通り、若干行為自体が否定的に捉えられているものです。明らかな誹謗中傷の話ではなく、特定勢力の圧力により、事実の指摘のようなものであっても、Google側が実質検閲するかのように特定のキーワードの検索結果を全て覆い隠してしまうという点が問題にされています。ところが、小倉先生は、Google八分を良きものとして捉えている。この言葉に対する感覚が噛み合わない限り、何が問題であるという前提が合わないのですから、議論そのものも噛み合わなくて当たり前です。そして、お互いそのことをわかっていながら、そのこと自身には触れていないように思えます。
一つ注意しなければならない点として、依頼によるキャッシュの削除と、依頼による検索結果から常に間引くことは若干違うと言うことです。小倉先生の挙げる事例(削除させたってやつね)と「あまりに酷いもの」の定義からすると、前者のことをGoogle八分に入れてしまっていますが、他の人の使っているGoogle八分とは若干ニュアンスが相違しています。つまり、小倉先生が肯定的に捉えているGoogleの対応は、Google八分のことではないと言えます。
と言うわけで、正直なところ、こう言った誰ともなく言い始めて明確な定義の無い(ネットイナゴとかもそうだし大きく言えばWeb2.0だってそうですね)言葉は、特に論理的な議論をされる方にとってはロジックの大前提が周囲の認識と相違したまま回復不能な方向へ議論が誘導されてしまう危険があるため、使わない方がよろしいかと思います。
ところで。
「ネットを「人を困らせて遊ぶエンターテインメント」だとするとそんなの当然ですか?」
って一体全体何が言いたいんでしょうか。誰に対する問いかけなんでしょうか。「お前らはみんな低俗なネットの使い方しかしていないバカだ」と言われているようにも思えるのは邪推でしょうか。だとすると、などという仮定に何か意味があるとは思えませんし、そうだとしてなぜ「そんなの当然」という言葉が出るのかもわかりません。当然ってのは「ネットをそう考える人にとってあまりに酷い=誹謗中傷は当然(意味が通らない)」あるいは「そういう人にとって誹謗中傷するのは普通の使いかた」という風に解釈すると、ネットをそう考える人への当て擦りということでしょうけれども、そんな架空の人物に向けられて問いかけされても困ってしまいます。

*1:以降触れませんが。ちなみに、何度か述べているように、「世界中の全ての人がノイズだ、と認識する情報はありえないのでノイズのフィルタリング機能などなくて当たり前」なのが僕のスタンスです。シグナルの抽出システムですよね、検索エンジンは。