今日からSI企業に勤める新人に向けて

ようこそ、SIerの世界に。これから君達を待っているのは幾多の苦労を乗り越えて、モノを作り出していく喜びです。どんな仕事でもそうですが、決して平坦な道のりではありません。いくつかの壁を自ら、あるいは他の人の手を借りて乗り越えていくことで成長し、より大きな仕事で活躍する機会を得ていくものです。
みなさんに必要なのは、お客様へソリューションを提供する力、すなわち、問題解決能力です。一言で言うと簡単ですが、これは様々な能力の複合要素であります。是非それを身に着けて、立派なSEになってもらいたいと思います。いいSEがたくさんいて、切磋琢磨していくことで、技術も変わるし、お客さんの意識も変えることができると思います。その為の私的な心がけをいくつか紹介したいと思います。

ベースとなるのは、技術

大手のSIerになればなるほど、若いうちからプロジェクト管理などが主体となり、お客さまとお話しする機会は多くても技術に触れることが少ないかも知れません。ここ最近続いているこの傾向は、あまり良いことではありません。お客さまに対して、常に技術者の視点から接するというのも間違いではありますが、何が現実的か、コスト、納期、要件の3要素のバランスが取れているかを最終的に判断することが出来るのは技術者の仕事です。
確かに、目の前にある数字というのはある程度指標にはなります。でも、技術者の出してきた見積もりが妥当であるかどうかを判断できるのは技術者だけです。プロジェクトを管理するために必要なのは、数字の管理かもしれません。しかし、プロジェクトが始まる前にある程度上手くいくかどうかの判断をつけることができるのは、技術者としての経験に裏打ちされた勘です。
若いうちは、まず技術を良く学んで欲しいと思います。技術者としていっぱしの発言が出来るようになることが、お客さんの信頼を得る近道でもあります。

コミュニケーション能力は会話能力ではない

面接のときに「自分は、コミュニケーション能力が高い」とアピールされた方もいるのではないかと思います。しかし、SIerに必要なコミュニケーション能力は誰かと親しくなるということではありません。お客さまの(曖昧とした)要望を正しく解釈し、それをシステムとして設計し、わかりやすくお客さまに提示しなおす能力のことです。
もちろん、話術としての能力も必要です。お客さまの空気を読んだり、政治的な立場に配慮したり、ということも必要です。時には、仲良くなるための歓談も必要でしょう。しかし、本道はあくまで説明能力だと思って欲しいです。
先ほど述べた、技術の必要性というのも、その説得力を増すという点で非常に重要なコミュニケーション能力のベースとなります。

歯車にはなるな

もはやIT業界というのは特別な、技術をもった集団という存在ではありません。分業がどんどん進み、ある一つのことが粛々とこなせるだけで、とりあえず歯車としては回れるようになります。ところが、そこで停滞してしまう人が多いのです。
確かに、安定した事務作業として仕事をこなすことは平穏無事な生活かも知れません。ところが、単純な事務ノウハウが次のステップに向かわないのがIT業界です。建設業に例えると、どんなに大工仕事が出来るようになっても建築士の資格は得られません。SEの能力も同じで、常に次のステップへの挑戦を行わないと一生停滞します。
正直なところ、野望を抱かないのであれば、歯車であることは心地よいかも知れません。しかし、錆付いてしまったらわざわざ磨き上げられるよりも、交換されてしまうのが歯車の運命なのです。

常に聞き耳を立てておこう

SEの仕事は、お客さまの問題を解決することです。直接間接的にお客さまに接していると、現在の状況とか、うわさ話とかが漏れ聞こえてきたりもします。そういった、アンフォーマルな声を集めて分析していくと、現在の仕事についての改善策や、次の仕事への道筋が見えてきたりするものです。
また、世の中で事件が起きたりした際の影響などもそれほど無縁な話ではありません。例えば、サブプライム問題で損失が膨らんだ会社はシステムへの投資を減らしてしまうかも知れません。
世の中のトレンドにも敏感になって、お客さまの知りたいキーワードをしっかりと把握しておくことも必要です。

いつまでも、勉強

愛されながら枯れていく技術もあれば、人知れず消えていく技術もあり、また巨人のようにそびえている技術もありますが、基本的には次から次へと新しいものが生まれてくる世界です。昨日できなかったことが今日できると言うのも当たり前のようにあります。
どんな立場に立とうが、日々勉強することで、世界を知る。これがSEに課せられた使命です。

システムを作る喜びを知ろう

現場に配属されると、何かを作ることになります。それは大きな、旧態然としたホストで動くシステムかもしれませんし、ちょっとしたウェブサイトみたいなものかもしれません。しかし、システムそのものに貴賎はありません。そして、システムが動く、というのは、我々が社会の一部を動かしている、ということに他なりません。実際にユーザーとしてそれに触ることは出来ないかも知れません。しかし、そのシステムが動いていることに思いを馳せることで、実感できることはたくさんあります。

広い視野を持とう

大きなシステムを担当すると、ついつい自分の担当のところだけしか見ないで仕事をしてしまうことがあります。まあ、それで出来てしまうわけですが。でも、それだとつまんないですよね。できるだけ機会を見つけて、全体を知る努力をしてみましょう。少なくとも、このシステムの構成と各コンポーネントの役割を書いてみて、みたいな課題にはすぐに答えられるように。なかなか大変です。

なぜ、を知ろう

大事なのは、「何故」です。やりたいことと実装というのは大抵ドキュメントに書いてあります。しかし、どうしてその仕掛けなどの結論に到ったか、というのは書かれていないことが多いです。
どうしても納得のいかない作りになっていても、それは、時期や予算による割りきりかもしれません。あるいは、政治的圧力の結果かも知れません。そういった過程については議事録やQ/A管理表などには記載されているかも知れませんが、表向きのドキュメントには結果しか書かれません。また、実装の部分についても、何故そのロジックを選択したか、等の根拠が記されていることは滅多にありません。
こういったことを意識できるかどうか、というのが技術者としてのセンスに直結します。

世間の仕組みを知ろう

例えば、銀行システムで、「融資業務」を担当することになったとします。さて、あなたは銀行でお金を借りたことがありますか?多分ないと思います。実態を知らずにどうやってシステムを作るというのか。もちろん、お客さまは業務には詳しいですから、具体的に何をやれば良いかわかっています。でも、融資であれば、審査する際に担保とか年収とかそういうのを調査するよなあ、という想像はちょっと世の中を知っていれば容易です。
このような、「大体こう」というイメージは、それだけに頼ったら危険ではあるけれども、大いに理解の手助けになるものです。
IT技術一辺倒ではなく、こういった世間の仕組みを知ることも、SEとして大事なことだと思います。

最後に

多すぎるよ!って思うかもしれません。でも、こんな話は何年も掛けて身に付けていくことです。焦ることはありません。でも、常にこのようなことを考えて仕事をする、というのは非常に大事なことです。一番大切なのは技術とそれに裏打ちされた論理的思考から導出されたソリューションをお客さんに提供することです。その為に心がけなければならないこのような考え方を一人でも多くのSEが持って仕事をしてくれることで、この業界全体が発展し、また、改善されていくことを願って止みません。

ようこそ、SIerの世界に。我々は、貴方達を歓迎します。一緒に世界を変えていこうではないですか!ワクワクするものを作っていきましょう!