深紅 / 野沢 尚

深紅
ミステリとカテゴライズしておいて実はそうではないのですが、ミステリタッチということで。一家惨殺事件を修学旅行のために生き延びた娘が加害者に同年代の娘のいることを知り、素性を隠して会いにいく話。ぶっちゃけすぎですかね。
文庫版の解説の高橋克彦氏がまあ大体言い尽くしている感がありますので今更ですが、復讐を期待している読者の予想を裏切り、自分探しを始める主人公。きっとこういう話に違いないという読者を裏切るという意味では成功しているし、評価されないのもわかるところです。
しかし現実では復讐なんて話はめったに聞かないわけです。凶悪犯罪被害者が加害者の関係者に会うことですらまれなこと。この小説は被害者側のトラウマと社会(というか人間関係)への復帰の一つの形を描いたものだといえば妥当なんではないでしょうか。空虚な主人公を描いたために描写自体が空虚になってしまっているのが惜しいところです。結末についても、こうなるのであれば主人公の起こす事件の必然性はあまり感じられない。脚本家ゆえのドラマの見せ方があだになっているのでしょうか。
小説としては序章である1、2章の描写の凄まじさのせいでメインテーマがかすんでしまっているのがもったいないですが、佳作。
作者は先年なぞの自殺を遂げてしまいましたが、想像力のありすぎることが生きることを難しくしてしまったのでしょうか。