歳月 / 司馬遼太郎

新装版 歳月(上) (講談社文庫) 新装版 歳月 (下) (講談社文庫)
自らの思考とその理念に生きた男。明治の日本に新しい秩序を打ち立てようとしたこの男がよりどころにしたのはその議論の能力であり、その法理念でいた。しかし、薩長に対する憎悪とも言える思いと、その容赦のなさすぎる思考が彼を追い詰め、結果、逆賊としてその命を落とすに到ります。
幕末の時代、全国で一二を争う開明的な藩であったにも拘らず、維新直前まで動かなかった鍋島藩は、それによりいわゆる維新の志士に乏しく、新政府でも大きな位置を占めることがあまりなかったのですが、下層階級から成り上がり、ついに新政府の法を作るところまで上り詰めた江藤新平。しかし、大久保利通との路線の違いが大きな障害になります。自らの正しさを信じるあまり、大久保を排除しようと画策するも、彼は純粋すぎたのでしょうか、結果として追われることになってしまいます。それは、その議論があまりに正しすぎて、人の心を害したからかも知れません。その点に関して司馬良太郎の筆は怜悧。
正式に裁かれることを期待してあえて捕まった彼を恐れ、処刑してしまった大久保の行為は、あまり気持ちのよいものではありませんが、それだけその議論の能力を恐れていたのでしょうか。