戦争はいかに「マンガ」を変えるか―アメリカンコミックスの変貌 / 小田切 博

戦争はいかに「マンガ」を変えるか―アメリカンコミックスの変貌

戦争はいかに「マンガ」を変えるか―アメリカンコミックスの変貌

僕とアメコミの出会いは妹がホームステイ先から持ち帰ってきたSPIDER-MAN(The Amazing,アーティストはTodd McFarlane)だったけれど、英語が苦手だった僕が実際にちゃんと読んだのはあの小学館プロダクションシリーズのX-MENだ。Jim Leeの絵柄は整理されていて読みやすく、多分日本人がアメコミを読むときのネームの多さをカバーしてあまりあるほどの魅力に満ちていた。でもなんか関係が複雑すぎて、紹介されている他のタイトルを読まないと話がわからない感じだったので消化不良。ついに原本に手を出した。
当時は下北沢にGOLODEN COMIXという専門店があって、バックナンバーをあさるもののなかなか無いわけですよ、これってのが。何の何号ってのはわかっているのにそれがないとか、あっても高々1$くらいのものが1000円超えてたりとかね。それでもいくつか目的のものを見つけて買ってみたり。当時のは補完的に買っていたからかなり断片的。そして、大学生になって通学の乗換駅が渋谷になったことでまんがの森に通うことになりました。だって出たときに買ったほうが安いもの。
当然のようにX-MEN中心に買っていたんだけど、AoA*1あたりまではなんとか追っていた(というよりこれの前後関係のせいで旧作探しの旅が)。どうやら傑作と名高いOnslaughtあたりからあまりのクロスオーバーっぷりについていけなくなり(当時は他のことでも忙しかったしね)、読むのを止めてしまった。
とはいえ、僕の中で一時期の大きな関心を占めていた存在であることは間違いない。ところでSpawnって完結したの?
さて、本題のこの本、斜め読みしかしていないので本質を外しているかも知れませんが、ざっと紹介

第一部 アメリカンコミックス

アメリカンコミックスといういまいち我々には全貌が見えないカルチャーの紹介

  • 第一章 見えないアメリカンコミックス:アメコミのポジションについて。新聞に載るような漫画と我々がイメージしているアメコミの立場と言うか地位の違いとそれから生まれる文化の差異、特に日本の漫画との差異。コミックブックのマーケットの変遷と弊害など
  • 第二章 作家の居場所:日本における漫画家の作家性とアメコミ作者たちの意識の違い。特に権利に対して。
  • 第三章 抑圧と解放:予定調和から社会的抑圧からの解放の表現に到る過程と、転向(イントロダクション)

僕がちょうど接していた時期のアメコミに対する印象は非常に限られた範囲ではあるけれども、それでもこれを読んで当時起こっていたことが実感を伴い甦ってきた。二章なんかは今著作権で議論している某漫画家あたりに読ませたいな。良いとか悪いとかじゃなくて、あなた方の目指すところの欧米はかくも自らの価値を作家性ではなく商業性においているのだよ、というところを。アメリカンドリーム的な。

第二部 「9-11」

9.11が与えた影響について。アメコミのみの話ではないところがポイント

  • 第四章 「転向」するひとびと:事件への反応、特にフィクションとして作り上げてきた世界が現実に拒絶されたことによる世界の崩壊。そして癒しとしての復活。停滞していた業界の復興につながった皮肉
  • 第五章 逃避の問題:良くも悪くも(日本も含め)漫画も政治の影響を受けているという話
  • 第六章 スパイダーマン二つの塔:流通・出版形態の変貌とコンテンツメイカーとしての出版社の再興

スパイダーマンはマーブル再興及びアメコミ原作映画ブームの火蓋を切ったものだし、映画としても良く出来ていた。

第三部 戦時下のマンガ表現

戦争と漫画の繋がりについて

  • 第七章 日本という言説空間:ここ何年かの日本の漫画界の戦争への無造作な言及について。反戦サブカルチャーとしての存在、実世界に対するステートメントという主張。9.11後に変貌を遂げた漫画など
  • 第八章 饒舌と沈黙:アメコミの9.11への言及。スーパーヒーロー物が置かれていた状況と、フランク・ミラーのそれに対する批判と世界の変貌による「転向」
  • 第九章 リベラルの右往左往:政治による利用、あるいは「こちら側」に踏みとどまること

特に七章における宇宙開発物(プラテネス、ムーンライトマイル)への批判、そしてPLUTOあるいは20世紀少年に対する評価は必読。


終章として、アメリカにおける日本の漫画が売れていることへの日本側の誤解など。これも知財戦略だなんだと言っている人々には是非読んで欲しいものです。
全体を通して、個人的には僕の読んでいた当時のアメコミ界の状況や作家それぞれの思想などがわかった部分がもっとも興味深いと思ったこと、また、明らかに存在するアメリカのマーケットへの誤解がこれからの日本の漫画の世界化にどう影響するかということを考える必要があるんだなと思った点がざっと読んだところの収穫です。もちろん、僕は業界の人ではないから日本から世界へのマーケットの行く先なんてしったこっちゃ無いのですが、著作権とビジネスにおける考え方などはそれほど他人事ではないのでそういった意味でも興味深い話です。
あと、丁度僕が読むようになった直前と直後あたりは個人的に再評価するべきだと思ったので、渋谷方面に行く機会があったらショップに立ち寄ってみようと思いました。
ちなみに著者の方のサイトはこちら。
http://www4.atwiki.jp/longboxman/

*1:THE AGE OF APOCALYPSE,1995