たとえの誤りを論証したところで元の話の否定にはならない。

せっかく小倉先生からトラバを頂いたのですが、僕がトラバしたエントリをはじめとして、本題のところには一切触れず、適当にたとえてみた点のみについて意味なく詳細に論証を行うのみに留まった記事で大変失望いたしました。こういうタイトルにしてみたのは何の意味も無い応答だよ、と言うことを示すためですが、そもそも、実際に誤りであると説明できているかと言うと…
僕のエントリの当該部分は以下の通り

でも、実際には、いくら外野の人間がお気楽に「気にしなければ済むことだ」といっても、気にせずにはいられないのが人間です。むしろ、執拗な嫌がらせを受けているのに、「お前が気にしなければ済むことだよ。そんなことでみんなの手を煩わせるなよ」みたいなことを言われて、苦しい胸の内を打ち明けることすら許されないような雰囲気作りを行い、かつ、その執拗な嫌がらせを受けている状況が未来永劫続くような絶望感を与えていけば、少なくない人は自ら死を選んだり、精神障害を起こすことにより精神的な苦痛から自らを解放する道を選ぶことにもなりそうです。

「被害者が気にしなければよい」との呪文で被害者をどう防備するの?: la_causette

これに対応する手段が実名化なのでしょうか。「飲酒運転による交通事故で人が死ぬから自動車全廃しよう、明日から」的な発想から言うと「業務用車両以外使用禁止」みたいな感じですが、当然業務用車両も飲酒運転するので解決になりませんね。

http://d.hatena.ne.jp/NOV1975/20070713/p1

それに対して小倉先生は以下のような論証をしております。

飲酒運転に対する対応策は、飲酒運転をしてはいけないとのメッセージをことあるごとに強調するとともに、しばしば飲酒がなされる現場では飲酒した人が運転しないことを再度確認、強調し、さらに、抜き打ち的に又は検問所を置いて飲酒チェックをし、さらに、飲酒運転の結果死傷事故を生じさせた場合には厳罰に処することとし、飲酒運転自体を抑制する方向を目指しています。もちろん、自動車全廃などは求めていないし、だからといって、「そのような措置を講じても飲酒運転は0にはならない。飲酒運転の車両が暴走しても被害者が良ければ済むことだし、運悪く衝突されて死傷しても被害者やその遺族が気にしなければ済むことだから、飲酒運転自体を抑制するような措置は講ずるべきではない」という方向は目指していません。

飲酒運転について「被害者が気にしなければ済む」という人はいない: la_causette

そもそも僕のたとえの意味すら理解せず表面上の言葉について語られても何の意味も無いですし、たとえ話を否定することはそれが「たとえられた側が間違っている」のではなく「たとえが不適切」であることしか意味しないことを考えてのことなのでしょうか。これを否定したら僕の論を否定できるとでも考えたのかな?
それでもこの話自体、元の話に置き換えるとそれほどずれていないような気がしますよ。やってみましょう。

ネットでの誹謗中傷に対する対応策は、誹謗中傷をしてはいけないとのメッセージをことあるごとに強調するとともに、しばしば誹謗中傷がなされる現場では嫌がらせに血道をあげる人がそういう人の発言を抑制する対策を講じていることを再度確認、強調し、さらに、抜き打ち的に又は権威あるページでは事前検閲などによって誹謗中傷チェックをし、さらに、誹謗中傷の結果PTSDなどの実害を生じさせた場合には厳罰に処することとし、誹謗中傷自体を抑制する方向を目指しています。もちろん、匿名でのネット活動の全廃などは求めていないし、だからといって、「そのような措置を講じても誹謗中傷は0にはならない。誹謗中傷を行うネットイナゴが暴走しても被害者が良ければ済むことだし、運悪くブログを炎上されて閉鎖の憂き目に会ってもしても被害者やその読者が気にしなければ済むことだから、誹謗中傷自体を抑制するような措置は講ずるべきではない」という方向は目指していません。

普段の小倉先生の主張っぽくなりましたね。しかし、これだと匿名での活動は全廃しなくてよいと言うことでしょうか。ちょっとすり替え気味になってしまってなくもないですが、僕のもともとのたとえから言っても「誹謗中傷」と「匿名でのネット活動」が互いに独立であることが示されているので問題ないでしょう。小倉先生は誹謗中傷を抑制するためには匿名の活動を抑制しなければならない、と言っているように思っていたのですが、上記のたとえでの論理展開を見ると、必ずしも匿名を廃止することを求めてはいない、ということですね。今まで誤解していてすみません。あれ?
べきではない、については後段で触れます。
ちなみに精神的被害と言うのは物理的作用による死傷事故とは違って行為と結果の因果関係はしばしば明確ではありません。複合要因による症状のとどめの一撃であったり、ほとんど自爆状態に巻き込まれただけだったりするので、例えば、丁寧な口調が慇懃無礼と捉えられ、バカにしている、どうせ俺なんて生きている価値が無いんだ、という方向にいってしまうこともままあることを勘案すると、原因に認定すること自体は結構難しいのではないかと思っています。これは余談。

また、スピード違反について言えば、さらに、オービス等を設置し、速度違反を認知した場合には車両ナンバーと運転者を撮影して、これを検挙できるような工夫をし、速度違反自体を抑制する方向を目指しています。もちろんオービス等を設置しても速度違反は0にはなりませんが、だからといって、そのような対策は無意味であるとの見解はあまり見られず、また、「速度違反の車両が制動しきれなくても、被害者が良ければ済むことだし、運悪く衝突されて死傷しても被害者やその遺族が気にしなければ済むことだから、飲酒運転自体を抑制するような措置は講ずるべきではない」という方向は誰も目指していません。

飲酒運転について「被害者が気にしなければ済む」という人はいない: la_causette

最後がコピペ修正漏れなのはご愛嬌として、スピード違反の話なんてしてないんだけどなあ。あと、例を複数上げたからと言っても論理展開が一緒じゃ繰り返すことによる強調にしかならないし、その結果がどういうことなのかは上に示したとおりです。

その行為の行使者が探知されがたい状況では少なくない人が社会的又は法的規範を無視して行動しがちである以上、そのような行動が比較的多くなされる場において行為者を探知しやすくする工夫というのは、しばしば行われていることです。「そんなことをしても被害は0にならないから、そのような対策を講ずるべきではない。そんなことより、被害者が気にしなければ済むことである」ということは、ネット上での匿名さんによる誹謗中傷問題以外では語られることすら少ないのです。

飲酒運転について「被害者が気にしなければ済む」という人はいない: la_causette

すげー曲解というか、何も読んでないの?それともまた印象操作
「そんなことをしても被害は0にならないから、そのような対策を講ずるべきではない」って誰か言ったの?それとも「匿名を全廃することが唯一の解決策であり、それを拒否する人はみんな誹謗中傷を肯定していると認識する」と言う立場でしたっけ。みんな(少なくとも僕)が色々な探知しやすくする工夫と匿名であることを両立させるように考えつつ、原則論や程度問題としての「気にしない」ことについて述べていると言う文脈を無視して良くもまあこれだけ切り出せますね。まあでも「べきではない」と言うのは行為の否定ですが、「そのような対策」が「ネット活動の実名化」であれば、少なくとも現時点では僕は「デメリットまでを考えた上での唯一の合理的な理由で無い限り、そのようなことを対策とすべきではない」という風には思っていますよ。「そんなことをしても被害は0にならないから」と言うのが理由ではないということはこれまで再三にわたって述べていることです。
「ネット上での匿名さんによる誹謗中傷問題以外では語られることすら少ないのです」ってのだってこういう場だからこそありうる議論であって、その他の問題とあまり類似していないからですよね。場所が限定されるから一般常識に外れるという読ませ方をするのもまた印象操作ですね。
応答がなかったからしばらくトラバしてなかったけど、これについてはトラバしておきます。しかし、枝葉末節的なたとえ話の一節のみを捉えて書かれるとは思わなかったなあ。