明らかに過失があるケースの訴訟を否定している人は誰か

小倉先生がコメントスクラム呼ばわりしている人は、医師の過失を含め、全ての医療事故は訴えるべきではない、としているそうなのですが…

また、「明らかな過誤について、訴訟を起こすことを否定する人は見当たらない」というのは、いったいあのコメントスクラムたちのどこを見ているのかと言わざるを得ません。

正義の味方じゃないのはわかっているけど - novtan別館

一方で、こんなエントリを書いておられます。

実際のところ、医療過誤で刑事責任が問われるのはどのような場合なのでしょうか。いくつか具体例を見てみましょう。
〜(中略)〜
上記のような行為は、医師の裁量の範囲として、容認すべきだったのでしょうか。

刑事医療過誤に関する裁判例等: la_causette

刑事責任が問われるのは、明らかな過失を立証できる場合、例えば、先の正義の味方じゃないのはわかっているけど - novtan別館における1ないし、2の一部であることがほとんどです。小倉先生があげている事例はどう読んでも1に当たると思われます。この様な事例に対して、容認すべきなどと言っている人はなんども言うようにいません。いたとしてもその人はみんなを代表しているわけではありません。先のエントリでもコメントしましたが、ないことの証明じゃないのだから、上記のことを主張するのであれば、少なからずそう言っている事例を挙げられると思うのですが、どうでしょう。
なお、あれだけ世間を騒がした大淀病院の結末は、こうです

極めてまれなで不幸な転帰を取った事例について、ようやく、奈良県警が結論を出しそうだ。報道の暴走に、警察が引きずられなかった。

「マスコミたらい回し」とは?(その40) 奈良県警、大淀病院産婦死亡事例を立件見送りへ: 天漢日乗

立件は結局されませんでしたが、このことによるダメージは大きく、

まさしく
「医療の無いところに医療過誤なし」
という萎縮医療になってしまっていると思います。

奈良 妊婦死亡 ついに町立病院産科休診へ | 勤務医 開業つれづれ日記

止めてしまえばババを引くこともありません。止めの一撃になったわけです。
何も、医療の側には全く問題がない、ということではありません。事実関係を明らかにしようとしたときに、カルテがおかしかったり、記録が残っていなかったりすることは、隠蔽工作を疑われ、訴訟の元になるだろうし、そのうちのいくらかは、本当にミス隠しだったりするでしょう。しかし、例えば、他のことに時間をとられたら、その分間に合わなくなる人の命が危ないとき、医師が取るべき道は、命を救うほうだ、ということ、また、トリアージを行った際にはその優先順位が下げられた人には「その人に全力を尽くしたら助かる」だけの処置は与えられないこと、など、処置が適切であるかどうかですら、現場の状況に依存します。だから、忙しかった、が理由になるのですし。一般の社会人は利益のためにキャパオーバーの仕事を請けて失敗したら糾弾されますが、医師はキャパオーバーの患者を受け入れて失敗しても糾弾されるし、受け入れなくても糾弾される、のでは、オーバーの原因を作っている行政こそがまず非難されるべきです。大淀だって、搬送経路の人々には責任がなく、もしここで責任を問うならば、予算や体制をこのようにした行政が対象であるべきです。