イリアム / ダン・シモンズ

ハイベリオンエンディミオンの4部作で膨大なSF愛を提示してくれた作者が送る一大エンタテイメントSFが再び始まったわけです。今更読み始め。
時は紀元前、トロイア戦争に興じる神々の姿。神話の世界。しかし、その神々はどうもSF的なガジェットを使って戦争を楽しんでいますぞ。その戦争を記録するのは読者の視点キャラクター的な学士ホッテンベリー。なぜか20世紀を生き、そして死んだはずの彼が神々に甦らされているようです。そして、他の学士ともども、ホメロスの「イーリアス」を知っている。つまり、戦争の結末を知っている。しかし、ゼウス以外の神々はイーリアスの内容を知りません。かくして、神々の戦いは謀略渦巻くテクノロジー合戦に…
いやはや、古代の戦争にそんな背景があったとはね。って、時系列おかしくないですか?未来から来た学士たち?
と思ったら、地球文学マニアの機械生命体が火星の調査に赴いてみたり、読み書きなどの知識を奪われた旧人類が残存する地球でおかしなことが起きたりという視点が加わり、3つの物語が同時平行していくことに。それを混乱無く読ませていくシモンズの筆力は相変わらず。
ハイペリオンのときは結構殺伐とした、死に向かう感のある空気が醸しだされていましたが、今回の地球パートはそんな雰囲気がありながらも、人としての力を奪われたところから、成長していく人々を描き出していると言う点で大きく異なります。しかし、旧人類の当初のお気楽さ加減は現代人への警鐘でしょうか。世の中ブラックボックスが多すぎる、と言うことは怖いことではあります。
さて、そんなわけで、ギリシャ神話からの膨大な引用とともに、オタク機械どもによるシェークスピアプルーストや、その他のキーになる様々な文学作品の引用がちりばめられています。その辺はふーんと思ってみていても面白いし、背景を探ると思わずネタバレしちゃったり、という感じで、単なる衒学的なものではなく、ごちゃ混ぜエンタテイメント的に上手く料理されているのでまあ安心です。
最後、風呂敷が広がりすぎてしまっている感はありますが、さて、続編や如何に、というところで続く。

イリアム (海外SFノヴェルズ)

イリアム (海外SFノヴェルズ)