奇術師 / クリストファー・プリースト

読もう読もうと思っていていつも忘れてしまうプリースト。いい加減読まないと思い、入手。

なんで書影が出ないんだろ。
さて、この本は映画にもなった(「プレステージ」)んだけど、2人のマジシャンがバトルする話です…大雑把過ぎるか。
双子というのはどこかで魂が繋がっているような感覚を覚えることがあるといいます。アンドルーには兄弟はいないはずなのに、なぜか双子がいることを確信していました。その感覚に導かれ、ある女性の家を訪ねることになりますが、そこに待っていたのはかつて、激しいバトルを繰り広げたマジシャンの片割れの子孫。そのバトルの相手はアンドルーの祖先。しかもこの女性、ケイトは幼い頃のアンドルーを知っているということでした。
物語はそれぞれの祖先が残した手記(かたやマジシャンの解説と共に人生を振り返る書物、かたや整理魔による日記として)を読み進めていくうちに明らかになっていくのは…
こういってもネタバレにならないから、いってしまうけど、作中でマジシャン達が観客を幻惑するように、プリーストは読者を幻惑しようと試みています。マジシャンの基本的な手法としてのミスディレクションはそのままミステリーのミスディレクションに繋がっていますが、ここではあの手この手を駆使して我々を煙に巻きにかかります。アンドルーの祖先とケイトの祖先は相手の瞬間移動マジックを暴き、あるいは自分の瞬間移動マジックを高めて行きます。
でも、途中から雲行きが…奇術師バトルだったはずのものがSFっぽくになってきたぞ!そう、ケイトの祖先エンジャの瞬間移動には、タネも仕掛けも…そして、衝撃のラストに到る伏線がこれでもかとばかりに投入され…

2人のバトルをそれぞれの視点から眺めると全く違うものに見えるのは、それぞれに関しての重大な謎がお互いにとっては隠されたままだからです。世の中でみんなが知っている「真実」というのはそんなものだということをいいたいようにも見えます。ここに描かれているのは2人の人間模様、それだけでも十分に面白いのですが、ラストの幻想的な風景はその全てを前振りにしてしまいます。一体どちらを読ませたかったんだろう。
一点納得がいかないところがあるのですが、完全にネタバレなんで書かないでおきましょう。決してパズラーミステリとかじゃありませんけど、道具立て的に西澤保彦が許容できる人は楽しめるかも。そうじゃなくても、結末には納得がいかないかもしれませんが、小説全体は誰にでも楽しめるんじゃないかな。