魔法 / クリストファー・プリースト

奇術師より古い本ですが、奇術師の解説で、絶賛されている(でも当時の翻訳は売れなかった)本として紹介されています。

魔法 (ハヤカワ文庫FT)

魔法 (ハヤカワ文庫FT)

テロに巻き込まれたショックで、過去数週間の記憶を失ったグレイ。そこにかつて恋人だったと名乗るスーザンがやってきます。スーザンの力を借り、記憶を取り戻していくグレイ。しかし、その記憶は微妙に現実と乖離しています。そして、スーザンの話とも。果たして真実は一体…
前半、グレイが自らの記憶を語るところは、まるでラブストーリーのよう。ところが、スーザンが語り始めたそのときから、世界は変貌を遂げてしまいます。そして…。奇術師の解説で「奇術師は魔法の構図をわかりやすく語り直した」というようなことが書いてありましたが、確かに似たような構図、二つの別の視点から同じ事実を語るという部分、あるいはそこに秘められた意図は、類似しています。でも中身は全然違うね。
大絶賛の声も聞かれる中、多分、「わからなくて評価しづらい」という人たちもいっぱいいるんじゃないでしょうか。初訳時に盛り上がらなかったのもわかる。これわかんないもん。
奇術師でもそうだったんだけど、すっきりと説明のつくラストであれば、もっと一般人に受けるんじゃないかと思う。つまり、この本は本読みのための本。読まれるための本じゃなくて、読み込むための本であり、そういう点では答えの明かされない本格ミステリみたいなものです。性質が悪いことに(笑)、前半の人間模様から大抵の人が予想する「こうであって欲しいラスト」は途中から全く省みられないし、最後に完全に捨てられます。なんていうとネタバレ的かも知れんけど…
話にオチが欲しい人には向いてないかも知れません。ただ、一度読んでわからなかった、という人はもう一周してみると面白いかも。