森鴎外が批判されている理由

さすがに理由はわかる。文献の真実性を判定できないので、文献に依拠する限りは、だけど。

しかし、私が調べる限り、森鴎外感染症説を主張した事実は無いように思えるのだが。

http://d.hatena.ne.jp/bn2islander/20081218/1229602301

の直後にあげられている資料から抜粋しよう(PDF注意)。

脚気の原因説には、高木のとった栄養説(これは治療法において皇漢医学とも通じる)、お雇い外国人教師のベルツやショイベらがとった細菌説、その他、米の変敗や腐敗した青魚によるとする中毒説や大気中のなんらかの毒気によるとするミアスマ(瘴気)説などがあったが、なかでも細菌説は最も有力であった。東京大学医学部卒業者の多く(12)がそれに傾き、とりわけエリート軍医、森林太郎(鴎外)がその中心人物となった。そして、彼がこの考えにこだわり続けたことが、その後の陸軍の悲惨な脚気禍をもたらしたと言ってよいのである。

日清・日露戦争と脚気

。科学的な「アルバイト(業績)」を主張する森は、翌年「兵食試験」の実験を行ない、白米飯が栄養的にすぐれていることを実証した。ただし、被験者数が白飯、米麦飯、洋食の3班各6名、実験日数8日間ということから、この「試験」の科学的な質を推測できるだろう。都合の悪いデータは統計からはずし、数値を操作し、栄養を温量すなわちカロリー値だけの問題にすり替えたのである。しかし、この実験結果は陸軍軍医総監、陸軍省医務局長となった石黒を大いに喜ばせた。

日清・日露戦争と脚気

これだけ見ると、実際に細菌説を提唱したのが誰であれ、それを元に軍政を行った、あるいは推進した中心人物として森林太郎の存在は大きい。この資料には各所に森が栄養説を否定し(これ自体は確かに科学的な根拠はこの時点では薄い)、麦飯ではなく白米を食べるよう圧力をかけたことが記されている。森の責任とは、栄養説を採らなかったことではなく、それを否定するあまり、実際に統計的に症状が改善している麦飯を取らせようとしなかったことにある。

もっと言えば、森鴎外脚気には関心がなかったのではないだろうか。森鴎外がこだわっていたのはあくまでも日本食であり、米食なのであって、脚気を撲滅しようとか、そのような考えは特に抱いていないのではなかったのだろうか。無理に森鴎外脚気との関係を結びつけるために、解釈にゆがみが生じているのではないかと思う

http://d.hatena.ne.jp/bn2islander/20081218/1229602301

たとえ脚気に関心がなかった(軍内での大きな問題となっていることから軍医が興味を持たないとは考えられないが)としても、白米にこだわるために脚気を減らせた麦飯を拒否したことは結果論としても責められるべきだし、医療者としても責められるべきだと思う。白米Loveだから病気のことなんかシラネ、じゃお話にならないわけで。
後者の文献でも森は批判の対象になっている。(PDF注意)

これは生理学的な知見を論じており、理論的には間違っていなかったが、脚気予防とは関係がなく、高木の方法論の不備を突いた揚げ足とり的発言であったと山本俊一は指摘している。森は自分のデータを持っていなかったのも問題であった。その後、森らは、陸軍で6名の兵士を対象に、白米のみ、麦混合食、パンと肉の洋食の3種類を、8日間食べさせ、健康状態や、便、尿の検査を実施した。結果は白米食が優れており、米麦混合食が2位、洋食は第3位と判定した。これも短期間の生理学的な検討であり、脚気の病因追求への意義は大きくなかった。

我が国の非感染性疾患疫学的研究の歩み その1

日露戦後も学者間で脚気の病因について意見の一致をみなかったこともあり、1908 年、陸軍は臨時脚気調査委員会を発足させ、森にその委員長を命じた。森は軍医総監であった。寺内正毅陸軍大臣は、「脚気研究は大学にてすべき性質のものであるが、わが陸軍は脚気病と多年戦っており、研究材料も多い。この会の本位(目的)は病原と治療の研究においてほしい。余も脚気を患い、麦飯をとっており、かって兵食に麦の支給を請うたが、石黒男爵、森局長は反対され、かえって詰問された。・・・脚気という陸軍の苦悩の原因を闡明したくこの委員会を設けた・・・」と述べた。感染説主張者である先輩達は既に多く引退し、陸軍では森一人が被告席に座らされたと山本俊一は述べている。

我が国の非感染性疾患疫学的研究の歩み その1

この点では確かに気の毒だ。一人の責任ではないのに一人で背負わされたという点で、過剰に責められているというのは否めない。脚気といえば森が悪い、みたいな世間の印象は過剰である。が、そのことと、森には責任がなかったかどうかということは別の話である。実際に起きているフィールドでの結果を認めず、他に原因があるとしつつもそれが明らかにならないから麦飯など試す必要がないとするような態度は科学者としてはそれほど間違っていないとしても、現場の医師としては十分に問題であると思われる。責められているのはその点。便乗して過剰に責めている人がいなくもないけれど、そういう存在がいることで論点が消滅するなんてことはないですね。