消えた墓石の謎

「というわけなんだ」
駅まで僕を迎えに来て帰る途中の車で親父は事の次第を語り終えた。
「しかし、誰が何のために」
「それがまったくわからないんだよなあ」
ともかく、墓石が一つ台座ごと消え去った、ということは紛れもない事実だ。


うちの田舎は広島の山深くにある。ツチノコが目撃されたり、ヒバゴンが住んでいるといわれる旧比婆郡鳥取と島根と岡山との県境にある、人気の少ないところだ。家には祖父母が死んでからは誰も住んでいないが、年に一、二回は家族で帰省する。家の面倒は近所の親戚が軽く見てくれてはいる。
お盆に先に帰省した親父が墓掃除をしていると、どうも違和感がある。あれ?墓が足りなくないか?


家の敷地内にある小さい山の中腹に整地された墓場がある。もっとも、そこに祭られているのはずいぶん昔の人で全部が誰かちゃんとはわからない。最近の墓は近くの共同墓場にある。
中でも、桜井源ノ進(漢字は適当だが)という人はうちの先祖なのかあるいはこの敷地にうちの先祖の前に入っていたのか、はたまた行き倒れなのか、よくわからない。その墓石となっている巨大な丸餅型の墓石が台座ごと消えてなくなっている。とても簡単に運べるものではない。しかし、台座の跡も残さず、最初からそこには何もなかったかのような状態だ。


「それで、不審な人がうろちょろしていなかったのか尋ねて回ったのだが」
なにぶん人気のない山奥であり、夜中に人が居てもまったくわからないくらいなところだ。目撃証言などあるわけはない。しかし、こんな話を聞いてきた。
「なんでも、歴史マニア?っぽい感じの人たちが「このあたりで黒田という侍のゆかりのある何かを探している」といって話を聞きに来たことが最近あったらしい」
「そんな話聞いたことないね」
「近所のお宮のほうにも調査をしにいったらしいよ」
「ますます怪しいけど…墓石を持っていくのと関係があるのかなあ」
「確かに立派な石ではあったけど、わざわざ窃盗の危険を冒してもっていくものでもないと思うし、どうやってもっていったかもわからない。跡がないしなあ」


「何か墓石の下にあるのを掘り出した、とか?」
「それだったら墓石は置いていけばいいんだ」
「掘った穴に石を埋めるとか」
「にしても余った土を捨てた形跡もないし、地面が綺麗過ぎる」
「でもあそこから石を運ぶのはクレーンでつるさないと無理だよなあ」
「まあ、昔は人出で上げたんだからおろすのも人出で出来るだろうけど、絶対跡がつくだろうし」


というわけで、忽然と消えた墓石の行方はわからずじまいなのだった。

ただ、こういう話がある。何代か前の先祖は敷地に田んぼを作っている最中、財宝の入った甕を掘り当て、それを元手に近所の土地を集めて地主になったらしい。もっとも戦争が終わり土地は大分没収されたらしいが。
その話が真実かどうかはわからない。けれども、歴史マニア?達が財宝の言い伝えをどこかで見つけた結果として墓を暴きに来たのであれば、残念ながらその財宝はすでになかったかもしれない。あるいは、墓の下に存在した財宝をの跡にすっぽり墓石が収まってしまったかもしれない。土葬であろうから、わざわざ掘り返して確かめはしなかったので真相は不明だ。

仮に財宝があったとしてもそれはきっとうちのものではないから惜しいとは思わないけれども、墓石が消えたことがどうも釈然としない。謎を抱えたまま東京に戻ってきたのであった。


※この話はノンフィクションです。何かこの類の話を聞いたことがある人は情報をお寄せください。ないだろうけど。ちなみに近所でお宝の話ってないかと思ったらこんなページを発見。ミステリー伝説紀行 知らなかったww