医療は「負の産業」である

ちきりんが妙なことを言っているんだけど、ブクマが非表示なのでみんなの感想がわからない。ので、吐き捨ててみる。

厚生労働省は医療費総額が28兆円であった1997年に、「このままいけば、医療費は2006年までに59兆円に達する」と発表しました。しかし2006年から4年も後である2010年現在、日本の総医療費は35兆円です。

2012-04-20

一般的に見て、医療費が抑制されることはいいことだと思われる。なぜなら、必要な人が必要な治療を受けられている前提において、医療費が少ない=健康である人が多いからだ。

しかし、北原先生は「医療は産業である」と言われます。もしこれが産業であるなら、今35兆円の総医療費が、将来59兆円になるとしたら、それは「医療業界は非常に有望な産業である」ということを意味します。

産業なら大きいほうがいいんです。産業規模が大きくなれば、その業界内で雇用を得られる人も増えます。産業として国際競争力を付ければ、輸出だって可能になります。

2012-04-20

産業である、ということは別に間違った話ではない。でも、ここでの「産業は大きいほうが良い」という言葉については同意できない。なぜなら、医療において産業規模が大きくなる、というのはマーケットが拡大している=病人が増えている、ということを意味するからと考えることができるから。

だから、産業として捉えることそのものはよいとしても、それを拡大し事業として高収益を目指す、という方向性に行ってしまうことは避けなくてはなりません。今だって実現できているわけではないけれども、ある程度の均質性と負担の公平性が求められる中で、できるだけ低負担を目指すのが国家戦略としての医療と考えたい。

国民保険があるせいで、日本の医療費用は異常に安く抑えられており、そのために様々な弊害がでていることが指摘されています。たとえば↓

2012-04-20

そりゃあ弊害はあるでしょうよ。でもね、

特にちきりんが慧眼だと思ったのは、「若者は病気になりにくい。病気になるのは高齢者だ。そして日本の高齢者はものすごい額のお金を貯め込んでいる。このお金を社会に環流させるために最もいい産業が、医療産業なのだ」という視点です。(もちろんセーフティネットはつけて)

2012-04-20

このカッコ書きのセーフティネットこそがこの弊害の元じゃないwそのセーフティネットを今より悪化させるというアイディアなのかもしれんけど、そうだとして、実際にお金を高齢者が落としてくれるの?そもそも、普段病気になって医者に来る高齢者がみんな「ものすごい額」のお金をため込んでいるのって本当?
むしろ、皆保険をやめることで、本当に必要な人はお金がなくて医者にかかれない、お金があって医者に来れる人は特定の医者に集中する。結果として産業としての医療は崩壊し、一部の特権階級のみへのサービスとして細々と存続する、という未来はあるかと思います。そのへんに対して無批判で「すばらしい」とか「慧眼」とか言っている場合なんだっけ。

最後がこれです。医療で外貨を稼ぐというと、「欧米や中国のお金持ちに日本の病院に来てもらって、高い料金をとって稼ごう」というメディカル・ツーリズムの話になりがちです。

しかし北原先生は「それでは金持ちしかメリットがない」と非難されます。「そうではなく、世界の人に、日本のすばらしい医療を受ける機会を提供できる、病院や保険制度の輸出をめざすべきである」と言われます。

2012-04-20

こいつもちょっと。北原先生曰くの弊害にやられちゃってる日本の医療と制度崩壊を起こしている保険制度は当然輸出できないから、改革して産業化して成功したものを輸出しなければなりませんが、そんなの今の世界のスピード感からいって間に合うわけないよね。

ちきりんもこういう「ユニークで破壊的で大胆で、かつ圧倒的に未来志向な思考」ができるよう、精進したいと感じさせられる本&お話でした。

2012-04-20

たしかにユニークで破壊的で大胆だけど、圧倒的に未来志向な思考かどうかには疑問がある話でした。医療は確かに大事なんだけど、産業として捉えた時に、常に成長を志向するものではなく、縮小できるものならしたい、負担を減らすべき「負の産業」と捉えるほうがしっくりきます。医療の本体ではなく、付随サービスを充実させることによって、金持ちからお金を巻き上げる、って話だったらわかんなくもないんだけどね。
にしても、肯定的にただ紹介するだけの感想文を書いているだけなのに自分も精進したいって言っちゃえるちきりんさん、最近ちょっと手抜きなんじゃないのと疑問を感じました。

そんじゃーね。