TSUTAYAに図書館業務を委託すると個人情報が流出するという不幸な勘違い

ブクマで騒ぎになっているけど、現時点ではあまり問題があるようには思えません。

佐賀県武雄市は4日、市図書館(同市武雄町)の運営について、全国でCD・DVDレンタル店「TSUTAYA」約1400店を展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(本社・東京都)を指定管理者として委託すると発表した。運営は議会の承認を経て13年4月からの予定。同社の公立図書館運営は初めてで、雑誌や文具の販売、カフェの設置などを計画している。
 市によると、運営方針には、蔵書を現在の約18万冊から20万冊▽雑誌や文具販売▽共通ポイントサービス「Tカード」を図書貸し出しに導入−−などが盛り込まれる予定。運営費は現在、年間1億4500万円だが、約1割減らす意向という。

http://mainichi.jp/select/news/20120505k0000m020120000c.html

図書館の業務を民間に委託するのが妥当か、という議論は別にあると思う。僕のうちの近くの図書館は民間委託されてるけど、単に本を借りに行く分には何も困らないからね。
さて、はてブでは「個人情報がTSUTAYAに流れる」と問題視している人が結構いる。
はてなブックマーク - 図書館運営:「ツタヤ」に委託 佐賀・武雄市- 毎日jp(毎日新聞)
これは、上記の記事にある「Tカード」を貸出に導入ってあたりから連想したんだろう。
でも、普通に考えて、Tカードを貸出に使うからと言ってTSUTAYAに個人情報が渡るというのは勘違いでしかないと思う。
ちなみに、プレスリリースは「Tカード、Tポイントを導入」とあるだけなので、サービスとして販売もはじめるからそっちだけに使う可能性がある

そもそも、既存の図書館利用者にとってTカードを導入するメリットは、すでにTカードを持っている人だけだよね。一方、すでにTカードを持っている人で図書館を利用していなかった人はどうTカードを利用するのか。

少なくとも、Tカードの規約上、ポイントサービスを利用する際には個人情報を相互に提供することに同意したとみなすとあります。ポイントが関係なければ個人情報は相互に提供されることにはなりませんね。

システム面から考えると、Tカードでの貸出を実現するためには

  • IDを既存のものと2重持ちし、どちらでもOKとする
  • Tカードの会員番号にデータを洗い替える。ない人はあとで登録

のどちらかが必要ですが、前者も後者も、当然ながら利用者の申し出がないと不可能です。さすがに全データを突合して名寄せなんてことはしないだろうし、しちゃいけませんね。
Tカードの管理システムに直結し、オンラインでデータ連携するという手もないことはありませんが、図書館システムをTカード側で持つというのはちょっと考えづらい話です。

というわけで、Tカード会員=図書館利用者登録者ではない以上、どうしても図書館側のシステムにTカードのIDを紐付けなければなりません。これが自動的に連結されることがない(全国のTカード所持者が図書館に登録されるなんてことがなければ)だろうから、図書館のシステムにTカードのIDを登録するほうが自然です。図書館のシステムはTSUTAYAのシステムと繋がっているわけではないので、結果として、(TSUTAYAが意図的にデータを持ち出さない限りは)図書館で登録・管理されている個人情報がTSUTAYAに渡るなんてことはありません。

TカードをIDカードとして使うことが個人情報をTSUTAYAが利用してもいいということである、というのは自明なことではありません。邪推に近い。IDは紐付けなければ問題無いということは認識しておきたいです。逆に言うと、今、個人情報管理で問題になっているのはどんどん紐付可能になっているということなんですよね。Iだから、TSUTAYAが今後どうIDを管理していくかは気になるところですが、現時点の発表において特に問題があるとは思えません。

補足

委託を受ける側のTSUTAYA(CCC)はさすがに企業としての線を踏み越えないと思っているけど、ちょっと市長の認識は危ないかもしれない。
高木浩光@自宅の日記 - 武雄市長、会見で怒り露に「なんでこれが個人情報なんだ!」と吐き捨て
貸出履歴は個人情報じゃない、というのはさすがにどうかなあ。仮に、リコメンド機能としてのデータの利用をなんらかの形でするとしても、それは個人の色を消したものでないといけない(この本を借りた人はこの本を買う傾向が有る的な分析に、個々人としての属性は不要だから)。
ビッグデータ界隈で、如何に「個人情報の不正利用」にならないようにするための理屈の構築をしている一方で、個人情報を持ってるほうが平気でそこの線を踏み越えてくるというのは気持ちのよいものではないですね。
CCCの担当者は、そこのところをちゃんとわかってて、市長が暴走しているのを苦々しく思っているようには見えます。