三木谷発言を否とするのは「誌面」という枠が崩壊しているから
ウェブ時代になって、情報発信については難しくなった面もあります。特に既存のメディアにおける発信力のある人ほど。それは、「読み手を選べない」ということです。
3流ゴシップ誌ならゴシップ誌なりの、スポーツ紙ならスポーツ紙なりの、写真週刊誌なら写真週刊誌なりの、それぞれの読者がいて、多少おかしなことを書こうが読者がそれを期待していて、所詮その読者の人数分にしか影響力がない、となれば大した問題ではなかった、というのがウェブ以前。ところが、そういう紙面という「枠」ではなく、記事単体、ともすればセンテンス単体がみんなにシェアされてしまうというのがウェブ時代。
そんななかでは、新聞記事やビジネス誌もその例外ではありません。
みんな朝日だ産経だなんだといいますけど、ウェブ時代以前に所要新聞の方向性を把握していてそれぞれについて批判できた人ってどのくらいいるんでしょうかね。
同じ情報を伝えていても、言い方一つで、印象はこんなに変わる。企業のトップのちょっとした不用意な発言が、ボディーブローのように企業イメージを少しづつ悪くする。
Life is beautiful: 反面教師としての三木谷発言
とありますが、三木谷発言自体の中身をみると、極めてビジネス誌向けの発言をしていることがはっきりしています。ここでは消費者の方を向いて話す必要は本質的にはありません。仮に、ウェブがなかったとしたらこんなに騒がれることはなく、せいぜい週刊誌が三木谷叩きをする場合に「こいつはこんなことを言っている」と引用するくらいでしょう。ようは、このくらいの文脈で叩くというのはいわゆる週刊誌的な手法なわけですね。
ウェブのこういう現状は情報発信側からするととても大変な状況ですよね。何を優先するかによっては叩かれる方向も変わってくる。消費者側の数が圧倒的なので、消費者向けの顔をしなければだめだよね、というのはまっとうな批判だとは思います。ビジネス誌ってことでうっかりしているんだろうなとも。
中身がアレだったことを除けば楽天koboの戦略は概ね正しいように思っています。とにかく中身がアレだったことが問題で、それについて当面の問題を片付けてしまえば消費者側は収まる、となればコンテンツ保有者側を安心させるのが優先、そう考えてもおかしくない状況ではあります。企業イメージというのは難しいもので、今噴出している問題を解決してしまえば、残る批判は普段から楽天に対して批判的な人たちだけだ、という可能性だってあります。三木谷社長はそこに賭けて、この先のAmazonとの競争を勝ち抜いて発展することを前提にして出版社側を向いたのではないでしょうか。
ともあれ、楽天は世間が思っているようないわゆる「IT企業」ではないし、三木谷社長も本質的には破壊的イノベーションマインドを持っている点を除けば旧来型の経営者だし（何しろ興銀出身だ）、こういうビジネス誌の枠的な罠には引っかかりやすいのでしょう。
こんな感じで書くと擁護しているみたいだなｗ
本題。ウェブ時代においては、「誌面の枠」というのはほぼ存在しません。会員専用コンテンツが少し枠に近いものを提供していますが、結局本来の枠とは違う誰かの関心空間に流れた時点でもう枠は意味をなしません。結果として、どんなに読者をしばろうとしても、そううまくは行かない。
というようなことを認識して、全方位的な発言をすることがウェブ時代の経営者の責務になってきます。今回の発言も、苦労をした人は絶対に忘れない。これから発生するかもしれないトラブルは常にこの発言を引き合いに出されるだろうし。月刊〜週刊レベルのビジネス誌において、こういう過程的な発言はすぐに忘れされてしまうものだけど、ウェブ時代ではいつだって「過去こう言った」ということが問題にされる。そういうことを意識できないと、いずれ跳ね返ってくるような言葉です。メディアもそれを意識しないといけない。大新聞なんかは少しそういう気配を感じなくもない（朝日の神田記者の扱いとか）。
いずれにしても、情報発信をすること自体が楽になったことに引換え、気を使わなければならないことも増えたというのが旧来のメディアの印象なんじゃないでしょうか。
さて、消費者の側を向かず、経営者として自信満々な発言をした三木谷社長と楽天。指摘されているように企業イメージがガタついてくるのか、それとも不具合が解消されて日本の電子書籍にイノベーションをもたらすのか、乞うご期待というところです。個人的には税金払わねー問題からAmazonよりは楽天に頑張ってほしいものですが、そもそもこんな問題以前に楽天のイメージがわる（以下略
まあ、はっきりいいまして、三木谷社長はもっとウェブとはなんぞやということを知っておくべきだと思いました。情報発信力が古いよ。
