ITのプロの概念を見直す

日本のIT業界の残念なところは、導入が早すぎたことと、それに伴って伝統的な職人の世界観が適用されたことだ。現場叩き上げ、技術は盗むもの、高品質至上主義等々。
そこから脱却しているところはもちろんあるけど「ソフトウェア工学?なにそれ役に立つの?」なんてところも多い。
昔は、ITシステムは「これから」のものだったから、現場においても試行錯誤の連続で、なにをしたいか、そのためにはどうしたらいいかをユーザー、ベンダー、SIer(という言葉はなかったと思うけど)が頭をひねって真剣に考えていた。OJTっていってもそういう中でやっていれば自然と試行錯誤する事が仕事になっていたわけで。20世紀の仕事ってのはそういうものだった。
今や、システムはあって当たり前の存在だ。よく、大企業のシステムが腐っていて、ベンチャーのシステムは素晴らしいなんてことが言われるけど、それは単に既存のシステムがあったかどうかの違いにすぎない。もちろん、大企業のシステムが腐っている理由はたくさんあるが、少なくとも新興企業において「既存システムがない」ことそのものがアドバンテージであることは見落とされがち。裏を返すと、今の時代に柔軟性のないシステムを作った新興企業はすぐ後進に追われる。
話を元に戻すと、ITが本来プロフェッショナルの仕事であることに対して、もう少し真面目に向き合いたい。かつては、客もプロの客だった。システムの良し悪しを考え、見極める。コスト感があって足元を見ない。プロの技はすぐに身につかないのを理解し、パートナーときちんとした関係を築く。
それは、在りし日の考え方で、今までそこに甘えていたSIerは「昔は客もこっちを育てようと考えててくれたのになー」とつい愚痴ってしまう。甘えである。
とはいっても、目の前には最強最悪の敵が待ち構えている。組織としてはそこから脱却しようとしているが現場がついていけない「システム子会社」「大手元請けSIer」である。
むろん、彼らも板挟みなのだ。だが、自分たちの甘えの部分はすべて下請けに転嫁することができる。死ね。しまったつい本音が。
こういう背景の変化に対して、果たして客に文句をいうべきだろうか。どうしようもないことはある。枯れていて明らかに便利な技術を「自分たちが使ったことがない」という理由で拒む奴らとは絶対に仕事はしたくないものだが、彼らが過剰に押し付けられているリスクの考え方の発生元は監督省庁だったりするとサラリーマンとして身動きが取れない。純粋にシステムを作ることに喜びを感じるような人はでかい組織では決定権を持つところまで出世しないというのも大企業の不幸ではある。でも死ね。
とはいえ、彼らもコストという言葉には敏感であり、それをうまく使えば改善は可能だったりする。プロの仕事はそこからだ。実績を集め、説得力を高め、エンドユーザーまで提案を届かせる。これは不可能なことではない。問題は、そこに込められた知見が単なる経験則ではなく、時代における妥当性を持っているかであって、そこにこそ、真のプロのエッセンスが詰まっているべきだと思う。残念ながら「ホストでもこれだけ出来るんです!言語はCOBOLが使えるので今までの要員が…」を新規性と捉えられることがせいぜいである。死んでいいよ。
どうも話が拡散する。呪ってはいけない。
このような現状において、プロを作り出すことは容易ではない。ましてや、自らの知的好奇心を発揮して行くクリエイティブな精神が必要とされない現場ばかりでは。今自分が作っているシステムの土台がどう動いているか興味を持たないSEなんて存在が許されることに僕は歯噛みをせざるを得ないのだけど、現場に出して「こいつ、システムわかってねーから来させないで」と言う客もいないし、そもそも労働が正常化して、委託契約になった時点で客もその権利を持たない。あほの居場所を作るのが現場の重要な仕事とかどう考えてもおかしい。ITが電脳土方になっている一つの大きな要因は、職人の世界から事務職の世界に「働き方」だけが変わったことにある。これは社会的には正しいのだけれども。
つまり、社会的に正しいとされる働き方にアダプトするプロセスを適用出来る組織を作らないと、ITはプロの仕事から脱落してしまう。社畜だなんだと古臭い会社を否定している人たちも、会社が成長するという自然の摂理としてどうしようもない事象にぶち当たると破綻することが多いのは、そういうところを無視しているからだ。大企業病が発症するまでの規模が小さいのは特定の個人の能力に依存しつつ、全体としては人手が必要な業種で、その最たるものがSIerと病院だと思う。
このような状態になっている原因の一つは客を育てることを怠ってきたSI業界自身にもある。この先は採算が合わなくなって実力のないところは会社が維持できなくなるだろうし、残されたところはまともな仕事をするようになるだろうし、業界のパイは縮小するけれど、客も妥当な相場をみるようになるだろう、という風に考えてはいる。果たして自分の会社がそうなれるようになにをすれば良いのか。悩ましい。