香乱記 / 宮城谷昌光

項羽と劉邦の時代、歴史は主にこの二人の争いを焦点に展開していきますが、広い中国ですから各地では色々な勢力が起っていたようです。そんな時代の斉(せい)の国の田氏の三兄弟のお話。
斉と言うのは殷周革命後に太公望が封じられた国。しかし、その後の戦乱を通して田氏と言う家系が王となっていました。太公望は姜氏なのでもうその家系じゃないわけですね。名君を出しながらも、最後は秦帝国に屈します。しかし、その衰亡に伴い遠い王系の三兄弟が王となり斉の国を復興していきます。しかし、秦が滅んだあとの世の中は次第に項羽と劉邦の二大勢力になっていき、斉もその波に飲み込まれていきます。
三兄弟の最後の一人、田横が主人公なのですが、秦の過酷な政治を反面教師に信念を持って豊かな国を目指していく様が書かれています。再び巨大な帝国が誕生するのを恐れ、どこにも与さない抵抗勢力ですが、歴史に埋没していることでも分かるとおり、ちょっと線が細い。少なくとも革命家の気概は無い。女を助けに無謀にも乗り込んで行って囚われ、結果として兄(従兄)が犠牲になるなど、それでいいのか?と思ってしまったりもします。とはいえ誰しもが統一の夢を見た時代に貫いた生き様としては見事なものがあります。
ちなみにここで書かれる項羽はちょっとおばかさんだけど情に厚い男、劉邦はだまし討ちの天才で誠意のかけらも無い男として書かれていますが、田横の誠実さとの対比させるためとはいえちょっとやりすぎ感はありますね。実際には登場させないことで魅力のほうを書かずに済んでいるという部分もあります。
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