エデンの命題 / 島田 荘司

エデンの命題 The Proposition of Eden
ここ最近脳と認識に凝っている(いや、わりと最初のほうからかも知れんけど)島田先生。本格推理小説の中でも島田荘司の書くものってよく考えたら誤認識をトリックの根幹にすえたものが多いですね。情報を時には省略し、時には補完して処理している人間の脳は、「意外」のものには騙されやすくできているのですよね。
さて、中篇2編を収めたこの一冊。そのうち一編は21世紀本格―書下ろしアンソロジーに既出の「へルター・スケルター」。筋立てとか結末は面白いんだけど時代背景に難がないか?というのを読み終わってしばらくはあまり気にさせないのがベテランの腕と言うものです。表題作はアスペルガー症候群の子供たちを集めた施設を舞台に、ユダヤ陰謀史観(これは史観というのかね)を中心にお話が進んでいきます。ここで書かれるアスペルガー(広義では自閉症に含まれる)の子供たちは実際にはどうなのかわかりませんが、さもありなんといった風に描かれていて、彼らの認識する世界が結末をちょっと切なくも救いのあるもの(見方を変えると救いがないような気もしますが)にしています。トリックと言うようなもの(あえて言うなら全体がトリックか)はなく、ちょっとサスペンスアクションっぽい珍しい一品。傑作ってわけではありませんが、そこそこ楽しめます。