なんで著作者の配偶者や子供だけ。

多分、みんなが覚えているこの違和感は著作権が「長くに渡ってお金を生む可能性のある権利」であることに起因している。われわれ一般の社会人は、会社に決まった額の給料を「勤めている間だけ」もらえる。不慮の事故や病気で早死にしたら、場合によっては遺族年金はあるかもしれないけれど、基本的には保険等の一時金以外は何もない。そこまでに積み立ててきた財産(場合によっては借金)が残るのみだ。手当てが扱った昔の大企業とかならともかく、普通は残された人が苦労して生きていったりするわけだ。死んだその日からお金を生み出す力は停滞する*1もちろん、その時点で十分な財産があれば、利子や配当などで暮らしていくことは可能かもしれない。
ところが、著作権は、新しい財産を生むことが可能である。これも見方を変えれば配当収入みたいなものかもしれない。と考えると、ある日突然権利がなくなってしまうというのはおかしなことのようにも思える。しかし、株などの財産が常に不安定であることを考えると、(売れ続けるかどうかは別として)ある日まで常にプラスの方向にしか向かない収入というのはものすごい大きな権利だ。
さて、違和感。一般の社会人は、死ぬまでに成し遂げたことが遺産になる。利子や配当を生む財産にしても、その時点での積み上げに過ぎない。著作による財産を同様に考えるとちょっと難しい。庶民的感覚で考えてみると50年が権利だとしたら社会人が50年間働いて積み上げてきたものに相当する。普通の社会人が働けるのは大卒〜定年で40年前後とすると、すでにして超えている。売れ行きがどうとか言うけれど、普通の社会人だってがんばった人は一財産作るし、がんばれなかったり運がなかった人はあまり残らない。同じことだ。早死にした場合はどうだろう。22で就職して30で早死にした場合、8年弱しか働いていない。当然(その額によらず)財産は8年分しか生み出せなかった。ところが、著作者の場合、あと42年も財産を生み出す可能性がある。と、比較したときに気づくのは、著作権が生み出す財産は、50年(頭金っぽい何年かがあるものの)分割払いに見えることだ。先の例で言うと8年間の間に成し遂げたことが財産だとすると、それを50年かけて受け取っているだけだ。その後に生み出された富は例としては適切ではないかもしれないが、早死にした社会人が開拓した取引がその死後生み出した利益みたいなものだ。
こうして比較して論ずることには取り立てて意味があるとは思えない。生み出した財産の質が全く異なるからだ。しかし、残されたものが得るものという観点から見ると、あと20年延長せよと言う議論で違和感が生じるのはまさにこのあたりの不公平感なわけだ。早死にした社会人の家族が食べるために必死に働いてきた(あるいはすでにある財産を食いつぶしてきた)一方で、同じように生きるために頑張ってきた著作者の遺族であれば、その感覚はきっとわかってもらえると思うのだけれども、遺産としての著作財産権を食いつぶしてきた遺族が「食えなくなるから後20年分の権利をよこせ」と言うことにはとても納得がいかないのではないだろうか。
大体、50年も継続して収入になるような著作を物したのであれば、その50年間における収入はまさに先に上げた分割払い的収入として、それなりな財産になっているはずだ。それを食いつぶしてまだ足りないと言う。この感覚は、とてもじゃないけれど共感することはできない。涙ながらに訴えること自体に嫌悪感を覚える。そんなに言うんだったら自分で働いてろよと。生活設計がなさすぎるんじゃないかと。
ところで、書いているうちに、遺族のいない著作者の財産権がどうなるか気になった。普通の財産であれば国庫に帰属するものだから、発表後50年たたない著作物の収入は生前と同じ条件で著作者の権利として国庫に入ったりするんだろうか。
12/15追記:ブクマコメントについていくつか。

goffden なぜこのエントリーでは著作権だけ「長くに渡ってお金を生む可能性のある権利」として考えるんだろう?会社を興した人が配当を生み出す株式を相続人に遺した場合は?サラリーの話と他の財産の話が途中で混ざってる。

本文にも書きましたが、比較をするのが主目的ではなく、公平な観点で意味のある議論、ということは考えてはいません。もし、違和感があるとしたら、どういったロジックで違和感につながっていくかを考えてみたかったのですね。あえて言うと、コメントにあげられている「配当」のような財産も安泰なものではなく、なくなるリスクもあるわけなので、限られたリターンのあるときにそれを享受すればよい。そういう点では大して変わらない。なくなるのが分かっていて文句をいうのは筋違いじゃないかな。今まで継続して売れてよかったねとしか思わないのです。

shiranui copyright 相続人いない場合は権利が消滅しますねえ(法第62条)

Thanks.ってことは財産権を委託されていた出版社とかは印税払わなくてよくなって丸儲け?

*1:通常の年金については、会社勤めと著作業で異ならないと考える