ふたり道三 / 宮本 昌孝

ふたり道三〈上〉 (新潮文庫)

ふたり道三〈上〉 (新潮文庫)

斎藤道三といえば、ご存知美濃の蝮として知られる戦国時代初期の雄です。あまり事跡が詳しく知られているわけではありませんから、司馬遼太郎ASIN:4103097337」でも斎藤道三の生涯を描いた前編では史実とされている話を踏まえた創作として書かれています(その反面後編では歴史小説になってテンションは落ちているように思いますが)。ところで、最近斎藤家との婚姻を巡る書簡が見つかったそうで、それによると斎藤道三は二人いた(というか、最終的に美濃の国主となった道三に先代がいた)という証拠がでてきたことが話題になったりもしました。と言う話とこの小説は直接関係なく。歴史小説というよりは伝奇小説でしょうか、とにかくいままでの斎藤道三像とは全く異なりつつ、それでいてそれなりに説得力のある話を展開しています。
最初の主人公は、呪われた刀鍛冶の血を捨て乱世を武士として生きようとする「おどろ丸」。その鍛え上げられた肉体と参謀松浪庄五郎の力で少しずつ地位を得ていくものの、陰謀の中幼い息子を失ったことをきっかけに、一つの枷を自分に嵌めてしまい、実直な武士として多くを求めなくなります。
一方の主人公は実はおどろ丸自身も存在を知らない実の息子、法蓮坊こと松浪庄九郎。水も滴る美男子でありながら誰からも愛される性格で、油売りから金の力で武士として成り上がっていきます。その参謀は放魚、かつてのおどろ丸の参謀の庄五郎その人でした。
父と子は初めお互いがそうとは知らず引かれ合って行きます。必死に真実を隠そうとする放魚、なぜならおどろ丸の奥方は非常に剣呑な性格で、夫の気持ちを奪われるのであれば実の子でも、いや、実の子だからこそ容赦せず切り捨てるような性格なのです。しかし、息子の方にはあるきっかけでばれてしまいます。そうこうしているうちに土岐家のっとりの陰謀は進行し、過去の因縁を含めた諸々がのりかかりついに親子の対決のときが…
さて、庄九郎一行、話の途中で北条早雲に会ってこんなふうに言われます「二代目はそんな風貌でもいいけれど、初代はもっとごつくないとダメだ」。ところが、美濃に行くと乗っ取ろうとしたさきにはそれまでは知らなかったけれど、「ごついお父さん」がいたというオチ。実直で信頼を得る初代と陰謀で乗っ取りを企てる二代目。北条家とは役割分担が違うものの、地元の豪族の力の強い国を乗っ取るには実際にこのくらいの人格と期間が必要なのかも知れませんね。もっとも、史実としては法蓮坊で油売りな初代がある程度の地位を得た後二代目が乗っ取ったということらしいのですが。
おどろ丸の前半生の物々しさ、庄九郎が登場してからのスピード感、いずれも魅力的ですらすらと読めるので戦国物好きにはおすすめです。
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