健全の反対は不健全か

某発言は考えるきっかけに過ぎず、ここではその内容には関係ない議論をしたいと思います。
通常、何かを健全だと言うときは「本来あるべき姿」を思い浮かべていることが多いと思います。ここで言う「あるべき」という思い自体が既にある特定の思想における価値観であることは感覚的に分かると思います。とするとこれは絶対評価であって、その思い描いた「健全」ではない状態のことなんか頭の片隅にもありません。単に「健全」と思いたいことが何であるかの表明なだけです。健全とは機能が上手く動いている状況ですから、色々な切り口で色々な健全さを示すことが出来ます。
じゃあ、その思い描いた「健全」に合わないものが「不健全」かと言うと、必ずしもそう思っているわけではないことが多いと思います。そのことを考えていなかっただけに過ぎないわけです。ただ、健全という言葉のニュアンスが、相対的に優れていることを示すように思えるということが対義語としての不健全という言葉を呼んでいるようです。逆に我々が不健全と言う言葉を使うとき、その反対に健全を見ているか。こちらは健全がないと成り立たない言葉ですから、健全を意識しています。
というわけで、不健全⇒健全という発想は不健全という評価をしている時点で健全を思い描いてないといけませんから必然的に成り立ちます。ところが、健全⇒不健全はそこでの健全の定義をよっぽど厳密にしないと何を持って不健全とするかというところまでたどり着きません。すなわち必ずしも成り立たない場合があると考えることもできます。
この語に限らず、見た目上は対応しているように見えても必ずしも双方向で関係が等しいとは限らない言葉はいくつもあります。そういう言葉は否定形が付いている方は必ず元の言葉と対比されますから、否定形の方を使ってしまった時点で元の言葉を規定しているのです。そのことによって元の言葉が本来のニュアンスを失わないように議論していきたいものですね。
追記:いまいち自分の中ですっきり解決せず、もやもやしながら書いていたのですが、頂いたブクマコメントなどを参考にもう一度整理してみました。

  • 「健全とはAの状態を指す」が事象の唯一の絶対的なあるべき姿を評価している場合
    • 1.「健全な事象=不健全ではない事象」が成立する
    • 2.「健全ではない事象=不健全な事象」が成立する
  • 「健全とはAの状態を指す」が事象におけるいくつかのあるべき姿の一つを評価している場合
    • 1.「健全な事象=不健全ではない事象」が成立する
    • 2.「健全ではない事象=不健全な事象」は必ずしも成立しない。他の健全に含まれる可能性があるから

1が成立するのは言葉のもともとの定義がこのような対になっているからです。一方で、一見左右を入れ替えただけに見える2は前者では単なる入替になりますが、後者は「Bという状態も健全と言えるかもしれない」という含みを持った上でAが健全であると言う評価をしただけであるのでNot 「Aが健全」は間違いでNot「健全であるA」を意味していることになります。
うん、イマイチすっきりしないぞ…例が健全だから文脈的に前者の状態であることが多いのが理由かもしれません。

直接は関係ないけれどsuVeneのあれ: 健全という言葉とその一見的外れにも見える反発について考えるでも面白い議論をしていますね。