世界の存続に関わることを個人の視点で判断するんじゃねえよ

前から何度も触れたが、因果関係の立証と言うのは正しい問題設定と正しい統計と正しい理論により行われるものであり、何が正しいのかはまずもって素人、特に文系の素人にはさっぱりわからないことが多い。バカだと言っているわけじゃなくて、その手の思考方法を必要としなかっただけなのではあるが、往々にして知識量にしてもロジックにしても論ずるに値しないだけのことが多い。だからこそ、専門家のあおりに簡単に乗ってしまうけれども、ちょっとだけ立ち止まってロジカルな思考を行えば何かおかしいことに気付くと言うのが現代人として生き抜くすべである。あるのだが、簡単に引っかかってしまうのが哀しい。
というわけで、某新聞の社説を批判してみたのであるが、危惧していた通り、センセーショナルな名称を付けた団体まで現れたようだ

しかしながら、■薬害タミフル脳症被害者の会という名称はいただけない。現時点では、薬害と決まったわけではないし、タミフル脳症という疾患概念も医学的に妥当なものではない。そもそも「被害者」であるとは断定できない。この辺りは、医療過誤があったわけでもない、病気で亡くなった患者を「被害者」と書く、まるで適切な治療さえすれば病気で人は死なないかのように勘違いしたマスコミに通じるものがある。薬害タミフル脳症被害者の会の目的を以下に引用する。*1。

本会は、タミフル(リン酸オセルタミビル)とタミフル脳症(注)、およびそれに伴う死亡との因果関係を、国、製薬企業、医療関係者に認めさせ、タミフルによる薬害を広く国民、医療関係者に知らしめ、タミフルによる薬害を防止するとともに、被害者およびその家族・遺族が救済されること、そのことを通じて、他の薬害をも防止することを目的とする。

最初に述べたように、タミフルと異常行動の因果関係は不明である。現時点では、タミフルと異常行動に因果関係があるかどうか知っている人はいない。誰も知らないことを「国、製薬企業、医療関係者に認めさせる」ことが会の目的になっている。

NATROMの日記 - 薬害でも被害者でもないかもしれないのに

そして、会を支援していると思われる内科医が主催しているNPO医薬ビジランスセンター NPOJIP << 速報 >>では、以下のような主張が展開されている

  • 本来インフルエンザは自然に治まる軽い感染症。それが、異常行動の現れる重い病気に仕立て上げられている

この一点だけとっても国立感染症研究所 感染症情報センター インフルエンザ-総説と違うことを言っている。
確かに上記NPOのページには僕も専門家ではないだけに「そうなのかな」と思うような意見が多数掲載されている*1。しかし、「タミフルが異常行動の原因」という命題を設定した上でデータを論じているようにも思える。つまり、主観が入りまくっているように見える。
最初に述べたとおり、「因果関係の立証と言うのは正しい問題設定と正しい統計と正しい理論」によって行われる。正しい理論と言うのは問題設定と結果を説明するためのものであり、あるいはその問題と実験を設定するためのベースであるが、後者の場合は過剰に主観が入ると問題設定を理論を立証するために歪めてしまうことに注意しなければならない。
僕も専門家ではないので多くを語るのは止めよう。しかし、インフルエンザが単なる風邪である*2という主張は明らかに世界の潮流から外れているし、大流行が起きた際に感染を広げ、また結果として死亡者を増やすだろう危険な思想なんじゃないだろうか。
もともとタミフル鳥インフルエンザの大流行に備えた薬であり、ただ現在のインフルエンザにも効くケースがあるから使われているに過ぎない薬のようだ。だから使う側の過信や過剰な使用は禁物であるし、もしかしたら本当に因果関係があるのかもしれない。しかし、大げさにいうと人類存亡の危機まで想定される大流行に対しての有効な対応策としての薬をいざと言うときに使用できないようにしてしまうと言うのは社会としての危機管理が出来ていないということになる。
(今のインフルエンザの話ではないが)例えば、極端に言うと罹患した患者の50%が死亡する場合に、ある薬を使用すれば10%は副作用に勝てないが、残りの90%は劇的に症状が改善するのであれば、全員に投与すれば死亡率10%(ただし死亡原因は全て副作用)、薬が禁止されていれば50%(全部その病気の症状)である。どちらがよいかは明らかである。副作用による死亡率だけを問題にすることはこのように危険である。「副作用のある薬は悪」という印象を与えているのもよろしくない。
薬の評価は社会的には全体として助かる率が上がるか下がるかがもっとも大きなファクターである。たとえ因果関係の立証がされたとしても、全面禁止にすると言うのは短絡的に過ぎる話だろう。

*1:専門家の方に評価してもらいたいものです

*2:大体単なる風邪だったら多少辛くても出歩いてしまう人がいるだろうが、インフルエンザは伝染性があるだろうに。