IT業界とSIer

とても興味深い記事を読んだ。
IPAフォーラム2007で討論してきた - 東大MOT学生の奮闘記
パネリストの顔ぶれがまた。

パネリスト3人は、NTTデータの元社長、TISの社長、IPAの理事長という、IT産業というよりSIerの人気がないことについて語りたいだけなんじゃないかという顔ぶれだったし

IPAフォーラム2007で討論してきた - 東大MOT学生の奮闘記

学生にもろバレと言うところが哀愁を誘います。

学生からは、「コミュニケーション力が必要というのは他の業界も一緒であって、IT業界に固有のものとして、例えば、プログラミングの知識を求めていないのか」という質問も出た。それに対しては、浜口氏、岡本氏ともに、「プログラミングの技術はあった方がいいと思うが、なくても構わない」という回答。もう少し書くと、「プログラミングは入社後にトレーニングすれば問題ない。SIerの業務の中では、いろいろな役割の人が連携して仕事をしている。みんながプログラムを書いている訳ではないので、入社後のトレーニングで適正がないと分かれば、プログラミングをあまり必要としない仕事をやってもらうこともできる」というような回答だった。
僕は、この話を「とりあえず会話ができそうな人をたくさん採用するので、そいつらを鍛えてみて、使えるやつだけ残していくよ」というような意味合いに取ったのだけど、本当のところはどうなのだろう。

IPAフォーラム2007で討論してきた - 東大MOT学生の奮闘記

ここでの回答は、ある意味では真実で、どの業界にもましてSIerと言うのは適性があるかわかりにくい。求められるポジションがいくつかあって、それは明確に違うんだけれども、必ずしも知識とか技術に関連付けられるものではないから。でも。「求めていないのか」の回答として何故こう言ってしまうのか。求めているに決まってるじゃん。これが、SIer業界が3Kになっている根本原因の一つであるのに。
NTTデにしてもTISにしても、SIerの親玉みたいなところなわけですが、その規模感から言ってももちろん新入社員全員にプログラムの経験を求めるわけにはいかないし、そうじゃない職種もいっぱいあるけれども。業務プログラムのかなりの部分はその他の業界と同じように、会社に入ってからの経験のほうがモノを言うとは言っても。「あった方がいい」レベルの話ではないだろう。優秀なプログラマーは、常に必要とされるはず。
例えば、僕の勤めているような中小企業では、自分たちでフレームワークを作ったりすることがなかなかできる立場で仕事をすることが難しい。だから、スーパーなプログラマにとっては物足りない仕事になりがちで、それでも、そのことをわかって仕事をしてくれるのであれば(つまり、辞めないのであれば)できるだけプログラミングの知識や経験があったほうが良いに決まってる。現実的にはそういう人は辞めがちなので、採用するのにリスクがある。うちはこちらは中小でも相手が大企業だったりすることも多いから、まともな論理的思考能力と、お客さんとちゃんと話せる能力があるほうが、経験より大事だったりもする。
まあ一応言っておくと、良く勘違いされるけど、コミュニケーション能力って、スムーズに話をできたり、相手を笑わせて和ませたり、気に入られたりってのは副次的なものであって、一番大事なのは相手の意図を的確に読み取り、あるいは引き出し、こちらの意図を間違いなく伝える、あるいは余計なことを伝えない能力であって、そんなに簡単なものではない。採用面接で「コミュニケーション能力には自信があります」と言っている奴は結構な割合で必要な能力を持っていない。だから、会話ができそうってことそのものは、ハードルを下げているわけではあまりないのだけれども。いや、うちの会社以外のことは知りませんが。
けれど、親玉たちに問いたい。お前らどんな会社なんだと。売上いくらあるんだと。優秀なプログラマーを使うことの出来る環境は絶対にあるだろうと。
ここで一つわかったことは、人月での仕事からの脱却とかいいながら、実はそう考えてないってこと。優秀な人が入って、非効率なところを駆逐し、失敗の少ないプロジェクト運営をし、過去の資産を生かして低価格、短期間でのシステム開発を行う、と言うビジョンはない。
車が売れないのと同様、システムも売れなくなるかもしれない。ありふれたものになったときに。もうそのあたりに来ている。ここで、効率が重要視されつつあるんだけども、売れる数の上限が決まっているとしたら、効率がいい=業界全体の売上が下がる、ということになりかねない。そうすると、親玉連中はタダでさえ人数つまり規模で売上を確保してきているから、どう考えてもこのままでは売上が下がる。その分利益を確保すればよいのかも知れないけれども、何しろ人がいっぱい居るからキャッシュフローが心配になってきたりする。
なんてことを考えると、下手に効率を推進する優秀なプログラマーは敵かもしれない。会社で育てたそこそこ優秀なプログラマーが忠誠心を持ちながら引っ張っていってくれることによって、売上や利益を確保したままの効率化を図る、と言うのが戦略なのかも。
SIer=IT業界ではないけれども、IT業界で働こうと思ったらほとんどSIerにかかわることになる。SIerだって生き残りに必死で、特に最近失敗のリスクがとても増えているから、優秀な人材は喉から手がでるほど欲しいはずなんだけれども、親玉たちがこういう認識でいる限り、業界全体がよくなるわけがない。自分たちの規模を維持するためにはどうしたら良いかを考えているだけに見えてしかたがなかった。