残業したいからしている人は害悪

勘違いしている人がいるかもしれないけれども、あのSIerの親玉が言ったことは全くのでたらめではないですよ。厳然たる事実として「残業したいからしている人」は存在します。そして、そういう人がいる限り、管理職は自分の無能を隠すためにそういう人の実態を槍玉に挙げるように報告するので、上の人は実態より更に多くそういう人がいるのではないか、という印象を受けることでしょう。いるという事実には目をそむけてはならないのです。
ところで、ちょっとわかりづらいかもしれないけれど、「残業を」したいからと言うのと「仕事が終わらない」「仕事をしたい」「勉強をしたい」と言うようなものは明らかに違います。「残業を」したいなんてのは本当に困る。無駄だから。結果として残業になった、と言うのが正しい残業であり、そのことについて残業代と言う報酬を与えることはやぶさかではない、と言うのがまともな経営者でしょう。残業をすることで付加価値が上がる、あるいは損失が抑えられる、のであれば、その代償があることは合理的です。
かつて、IT業界がまだそんなに一般的ではなかった頃、一人頭の付加価値が高かった頃、それを高めるために勉強したり、一心不乱に働いたり、ということはそれほど効率の悪いことではなかったんじゃないかって思うのです。それは、今もベンチャーや、最先端の技術を開発しているところにおいては有効でしょう。一方で、SIerとして出来上がってしまった今のこの業界において、働く人と言うのはコストとリスクの管理下にあります。適正なコストで、リスクを最小化して、と考えていくと、どうしても一定の枠内で個人の能力を評価しなければならないし、残業代は利益に直結します。その中で、残業したいからしているようなことが当たり前になると、帰りたい人も空気的に帰れなかったりして、じゃあダラダラ仕事しようかってことになりかねないし、効率も上がらない。別に効率を上げることが至上命題ではないから、それはそれでいいけど、コストは確実に上がっていきます。
SIerの、ものづくりの部分の大多数は、破壊的なイノベーションを求めるものではないですよね。もはや一般の事務職に近いわけです。ただ、もちろんそれだけでは新しいものは生まれていかないから、そういうのはちゃんとしかるべき会社や、しかるべきセクションがこなしていくわけで。SIerはでも規模があるならば、そういう力を持たなければならないのです。難しいのは、そういう人たちの残業ってのはまた別の評価軸が本当は必要なのだということですよね、多分。
好きだからやっていることと労働時間と賃金の問題ってのはわりと原則同士がぶつかっちゃってどうにもこうにもって言う問題なんですが、残業一つとってもその実態において多くの種類が合って、一口には語れないものですね。だから、SIerの親玉が、前途ある学生に対して「帰りたくない人が帰れないだけ」と言ってしまえる発想をもったトップは、残業したいからしている人よりも害悪なのかも知れません。