Winnyノード数減少の原因とこれからの展開について

大半は憶測です。まず、高木先生のエントリから。と、その前に、話の枕的エントリを紹介。

アンケート調査によると、昨年9月以降にファイル交換ソフトを使ったことがある「現在利用者」の割合は9.6%(1943サンプル)。昨年6月調査の3.5%から6ポイント以上増えた。

「ファイル交換ソフトユーザーが急増」──ACCS・レコ協など調査 - ITmedia NEWS

なんと、現在利用者が3倍に激増です。しかしこのオチは後述。
さて、高木先生のエントリで、高木先生謹製Winnyノード数監視ツールによる観測結果が提示されています。それによると。

昨年の11月末から12月末にかけての大きな減少が見られるが、これは、違法な送信可能化をしている利用者にISP経由で警告通知を行う活動が開始された時期と一致している(「ACCSがプロバイダを介してWinnyユーザに警告メールを送付」参照)。その後、年明けにぶり返し、1月末までは増加傾向が見られる。しかし、3月の頭から再び減少に転じ、ゴールデンウィーク中に若干ぶり返しつつも、その後は単調な減少傾向が見られる。3月頭に何かあったのかは不明だが、ニコニコ動画が「β」を終了し「γ」として新規ID登録を開始してサービス再開したのが3月6日だったようだ。

http://takagi-hiromitsu.jp/diary/20071228.html#p01

おおっと、実際の実働ノード数は減少しているようです。しかし、何故前述のような報道になったのでしょうか。それは一旦おいておいて、ニコニコ動画。どうも、Winnyでいつゲットできるかわからない高画質神動画をダウンロードするよりも、ニコニコ動画にアップロードされたものを視聴する、という形態にシフトしていったのではないかということが、この結果から推測されます。Winnyで最も流通していたものはなんなんでしょうか。直感的にはアニメとゲームなんですが、この辺は統計があればあたりたい。
で、その中の、アニメすなわちバイナリそのものが必要なのではなくて、どのようなデータ形式でも良いから見れればよい、という層が少なからずいるカテゴリのものについては、実はWinnyは本当に視聴手段の一つであり、オリジナルデータが欲しい人は少数派だった、ということが推測されます。このことは、大雑把に言うと、「WinnyなどP2Pソフトによる損害」というものが実体としてはそれほどではなかったかもしれない、ということも推測できる、ということです。つまり、カジュアルに「見れるなら見てもいいかな」というレベルであり、かつ、潜在的な顧客である可能性も高い層であるともいえます(ちょっと言い過ぎ気味ですが)。だから、むしろ自由な流通がプラスになった、すなわち、ニコニコでオリジナルソース以下の画質を見てオリジナルソースを購入するかも知れない層とも言っていいかも。
いや、別に違法なアップロードを擁護しようとしているわけではありませんが、実態としてみると、そんなにP2Pなり動画アップロードサイトが実害を与えているとは言い難いような気がしてきてしまいますよね。
というわけで、僕が思うに、ある程度低画質ソースのものをいかに自由に流通させ、興味を持った人が高画質ソースに手を伸ばさせるか、というところを戦略的にやっていくべきなんじゃないかと思うわけです。本当に高画質が欲しい人が大半なのであれば、ニコニコ動画にいくらアップロードされようが、DVDソースのファイルをWinnyなりでダウンロードしたくなるはずなのですよ。しかし、実際にはノード数は減少している。ニコニコで満足できる層は果たして潜在的な購買者なのかどうか。ここのポイントは、しかし、お互い譲れない線にはなってしまうと思います。
さて、最初にあげた調査結果。これが、業界の責任の押し付けと言うか、苦しさを具現しているというか、そういったものであることも高木先生が引用したサイトに示されています。

「調査方法」の変更。

  • 2002年から2006年までの調査は「インターネットユーザーを対象として、ファイル交換ソフトの利用実態に関して、インターネット上のWEBアンケートサイトを利用してアンケート調査を実施」
  • 2007年の調査は「(株)メディアインタラクティブが運営するアンケートシステム「アイリサーチ」のモニターを活用して行うWEBアンケート方式で実施」

「現在利用者」の定義の変更(徐々に定義が拡大)。

  • 2002年の調査では特に説明なし。
  • 2003年と2004年の調査では、ファイル交換ソフトを利用していると回答した利用者と定義。
  • 2005年の調査では、アンケート時より半年以内にファイル交換ソフトを利用したことがあると回答した利用者と定義。
  • 2006年と2007年の調査では、アンケート時より約1年以内にファイル交換ソフトを利用したことがあると回答した利用者と定義。

これらにより、今回の「現在利用者」急増の背景は、「調査方法」の変更が影響しているのではないかと、という疑問がわいてくる。
(追記)要するに、2006年以前と2007年では調査方法が違う可能性が高いということ。調査方法が違うのなら、数字の比較はあまり意味がない。

http://d.hatena.ne.jp/AgiYukio/20071227/1198684570

ま、つまり、延べ人数の範囲が徐々に広がっているから拡大するのは当たり前、という話ですな。これはひどい。何が何でもファイル交換ソフトの利用者が増えているとしないと、それによって業界が脅かされているということに説得力がなくなるから、こういった形での結果を公表しているとしか思えなくなってしまいます。
僕は、統計を恣意的に弄るという行為を行った時点で、その主体は何か後ろめたい、隠したい、捻じ曲げたい、ものがあるのではないか、と強い疑いを抱きます。
多分、これからの1〜2年で決まってくる、利用者と権利者と、業界団体の利権争いは、向こう何十年かに影響を及ぼすものになると思います。こういった政治的なオピニオンというのも言ったもの勝ち、調査結果として出したもの勝ちになりがちですから、高木先生の調査結果なんてのはなかなか心強いものがあります。
売上がどのくらい落ちた、なんてのは業界の内部資料ですからいくらでも操作可能ですし、今回のようなP2P利用者の急増と言う実質嘘の発表もしたもの勝ちです。これからこういう類の裏取りを利用者側でも行わなければならないですねえ…。