自己責任と選択の余地

目が覚めたら、狭い部屋の中にいた。地下室のような、窓のない。扉は堅く閉ざされ、鍵穴はあれど、家具は机の上に意味ありげに置かれたボタンのほかに見当たらないこの部屋のどこかに鍵が存在するとも思えない。
不吉な予感、いや、破滅の予兆を感じながらも意を決して机に向かう。そこにはボタンとともに、メモが置かれていた。
「あなたには、選択する権利があります。よって、結果についての責任は、あなたにあります。」
このメモを置いた奴は何を考えているんだ。
「それぞれのボタンを押すと以下の動作が発生します。
1.部屋の空気が少しずつ抜け、あなたは緩慢かつ苦痛を伴う死を迎えます
2.部屋に少しずつ浸水が始まり、あなたは緩慢かつ苦痛を伴う死を迎えます
3.部屋の天井が徐々に下がっていき、あなたは緩慢かつ苦痛を伴う死を迎えます
なお、一定時間が経過するか、装置が破損した場合は自動的に1が選択されます。では、幸運を祈る!」
くらくらした。自己責任というのはどこまで適用されるというのだ。この部屋に居るのは俺の意志ではない。しかし、何故…
昨日の記憶がはっきりしない。いや、昨日なのか今日なのか、あるいはもっと前なのか、それすら…。
おぼろげながら、出会った男のことを思い出す。自己責任教とやらに入れたことをことさらに自慢していたっけ…。信者の証…そう、確か鍵型をした…
既に選択をしなかったという選択をしてしまったのか、心なしか酸素が足りなくなってきた気がする。別の選択肢はないのか。いや、ある。緩慢ではなく、急速な死。しかし、メモの内容は真実なのだろうか。死の直前に、救われたりしないのだろうか。
自ら提示した別の選択肢を選ぶことは100%の死を意味する。そして、それだけは確実に自己責任と言えよう。既に自らの思考が正常でないことを感じつつ、俺は装置を破壊し、その残骸を…