みずほ銀行のシステム、これからが正念場

なんだか今回のシステム統合のからみで信用売残が沢山あったという話を聞いて金曜日に信用買いしていればよかったと思った今日このごろです。
色々取り沙汰されていますが、正直今回のはなんでこんなに騒いだかというのが疑問な程度の話ではあります。

すでに報道があるように、これから正念場の次期システム開発があります。予定している時期に間に合うのか疑問ではありますが。ここで過去の経緯を少し振り返ってみましょう。

2002年 3行統合

もはや前の3行とは?と聞いて言えない人も多いのではないかと思われますが、第一勧業銀行、富士銀行、日本興業銀行が合併して、みずほ銀行みずほコーポレート銀行になりました。顧客は前者はリテール口座と中小企業中心、後者は大企業中心となります。第一勧業銀行ってのは昔第一銀行と日本勧業銀行が合併してできた銀行で、当時から両行の出身者の仲が悪いことで有名でしたw第一は財閥との合併で痛い目をみて、その後三菱との合併寸前取り止め事件もあったせいで財閥系の富士銀行との合併はかなり気を使ったものと思われます。結果として、DK VS Fの主導権争いが統合に暗い影を落とします。
一方、メガバンクの合併続きという状況はITベンダーにとっても事件でした。2000年当時、システムベンダーとしては

となっていて、合併後東京三菱UFJIBM三井住友銀行NEC、みずほはIBM富士通が拮抗、富士通メガバンクの勘定系を失いたくないのでここが正念場、というところでした。日立はゆうちょて話もあってちょっとまた別案件。
みずほ銀行IBM優勢という下馬評を覆して富士通側に移行することに決定、しかし、2002年の統合には新システムもデータ移行も間に合いません。なので、まずは形式上同一会社ということでATM利用料の自行扱いからはじめつつ、同一行としてシステムを直接連結するリレーコンピューター方式を採用しました。これは、相互のホストのバックエンドで取引を投げるという方式ね。つまり、旧DKBのATMから取引をすると旧DKBホスト→旧FBKホスト→旧DKBホスト→旧DKBのATMという取引をするということ。このシステム自体はトランザクション制御だけがキモで本当はそんなに複雑ではないのですが、様々な理由でここがこけちゃった。更に口振でも(データの問題はあれども)失敗して大惨事が起きました。
まあこの大惨事の原因は行内政治主導だったという問題が有りました。よくある笑い話の下の問題有り報告が一番上に行くまでに問題なしに変わっちゃっているアレとかもあったんだろうと思いますね。

それから3年弱の歳月をかけ、1行2システムの状態から旧富士銀行口座を旧第一勧銀口座に移行する作業が完了し、みずほ銀行としてはなんとかシステム統合にこぎつけたわけです。

2011 3.11震災後の大惨事

統合した先の旧第一勧銀システムはシステムとしては旧世代の生き残りです。それが何を意味しているかというと、メンテが大変ということに尽きます。ドキュメントはちゃんとしていない、どう見ても死んでるロジックだけど怖くて外せない、項目一つ変更するだけで影響調査が必要な部署が二桁、とまあそういうレベル。特に最後のが維持費(新サービスへの対応含め)を莫大なものにしている原因です。そういうものを使い続けることでこんな事件も起きます。

これも本来であれば早い段階でどこかで稼働にストップをかけるべきなんですけど、過度に責任を追求する銀行という世界の中では止めることがマイナスになるなら一か八かという思考が働いたのかもしれません。減点主義は平時には強いけどトラブルに弱いという問題があります(これはどこかの電力会社もそうなんじゃないかな)。

実際のところ、システムそのものには本当は問題がないんです。問題があるとすれば、限界値を明示していなかった&限界突破時の対応をきちんとしていなかった。これは運用の問題が一番です。運用が適切ならシステムは対応しない、というのは世の中にはたくさんあります(じゃないと起きない問題のためのシステムのコストが増大する)。ただ、銀行システムというのはこのような問題発生時の社会的影響が強すぎるために、そこにコストをかけているんだけどね。

次期システムへの道

これもすでに報道されていたんだけど、3.11後の施策として、マイルストーンを引き直さざるを得なかった。というか、既存の計画を明確に発表しちゃった、というのが近いのかな。で、プレスリリースも含めた報道では、2013年3月に「業務共通基盤を構築」とされていたんだけど、これについては特別なリリースは今のところないですよね。ただ、みずほダイレクトのアナウンスでは5/26に新商品を展開しているので、これが新しい基盤経由になっている可能性はありますね。
で、今回、コーポレートとの統合ですけど、これは看板の付け替えがメインで完全な移行ではないはず。なので、次の2016年3月末って言っているところが本丸ですね。あと3年切ってるってのは銀行の基幹システムとしてはかなり直近に近いイメージ。間に合うのかな…

問題は何か

システム統合が失敗した時の問題は多分に政治主導だったことだ、と先に述べましたが、今回もそれが当てはまると思います。というのは、銀行のシステムにはそれを使うユーザーがいるわけですから、そこの利害関係の調整が上手くいくかどうかがまずひとつ重要なんですよね。これは銀行に限った話ではない。システムが持つ情報なんて本来不要だけど旧システムで持っているからという理由で持ち続けているものとかもたくさんあるわけで、業務の効率化とか、迅速化なんてことを考えると、旧システムの考え方に出来るだけとらわれないで設計をしなきゃならないんですけど、現場の業務側からするとそれは困る。なので、新システムは往々にして「前と同じ事は(それが業務として本来は不要であっても)最低限できる」ことを要件としがちです。でも、システムのアーキテクチャーが変わればできなかったことができるようになる反面、できたことができないようになることはよくあることで、経営課題として何を優先すべきかという大上段の話がまずあってしかるべきなんですけど、これをユーザー目線からの積み上げにすると必ず失敗します。ええ、必ず。なぜかというと、それはシステム側に権限がないことを意味するので、ユーザー要望は新システムで実現困難であっても拒否するのが難しい(できても時間がかかる)ことが想定されるからです。時間も金も無限にあるならばそれで良いんですけどね。
銀行というのは多分にセクショナリズムの強い組織です。勘定系が要らないって言っても情報系がそれ困るって言い出したりすると痛み分けな結論ではなくて「必要な方が費用負担(あるいは対応)しろ」「今までできたことができなくなるなんておかしいだろ?」というような対立が起こることは目に見えています。そんな状況で物事を決めるためには、共通のお財布を持った人が適切な判断で振り分けていく必要があるんですけど、巨大なプロジェクトで事業部レベルで違う人達が対応していてベンダーも違うのにお財布を共通化できるわけがありませんよね。これが最大のネックになって、次期システムの開発が頓挫するようなことがないように業界人として祈っておきます。