システム屋に不当にボッタクられたくない人のための要求講座

増田の記事を見て書こう書こうと思いつつ週末は忙しくて書けなかったのでドックイヤーどころかバンブーデイと言われる(今作った造語だが)ソーシャルメディア界隈ではもうネタにならないんじゃと思いつつ引っかかった場所を中心に書いてみようと思います。

元増田はここ→システム屋に不当にボッタクられないための発注者心構え

何もIT知識のない素人企業を、スキあらば適当な見積もりでボッタクろうとするシステム屋ばかりでここはひどいインターネッツですよ。
世知辛い世の中です。

こういう「知らない人」を宥める挨拶を持ってくるとは、この元増田、素人ではないっ…とはいえ、ちょっとこのあとに書かれていることは要求のレベルが高すぎるんじゃないかと思います。僕達SIerというのは、「何やればいいかよくわかんないんだけどシステムで会社を良くしたい」って思っている人をお助けすることも大事な仕事です。もっとも、そこまでのレベルの会社は個人商店の延長に近い中小企業くらいしかもはや残っておりません(システム化の余地が少なく、せいぜい会計と給与とメールシステムくらいしかない会社)し、あったとしてもお奉行様あたりのターゲットでしょう。

では、個別の課題について。その前に大事なことを。システム屋にも色々おりまして、ここではある程度の有能さがあるシステム屋さんを前提にして書きます。有能さを判断することは素人には難しいと思いますが、本当に有能であれば提案してくるであろうポイントを散りばめておきます。応答している最中にそういった部分に触れてこないシステム屋さんは少し警戒したほうが良いと思います。それでは元増田のエントリのポイントを中心に話を進めます。

「要求は最初になるべく細かく紙に書いて突きつけましょう」→「要求は細かくなくていいので、まず実現したい目的は何かをはっきりさせましょう」

最初から書けるものがある会社はこんなエントリ要りませんですねw
よくシステムで失敗するのは「目的が曖昧なため、社内調整がうまく行かずわけのわからない、コストだけ掛かるシステムが出来上がる」というパターンです。実現したいのが「今やっている業務のシステム化」であれば書かれている「業務フローの書き出し」も可能ですけど、それがシステム化してメリットがあるかどうかははっきりしません。目的が業務の効率化であれば、既存のパッケージに置き換えて業務側を改善するということもできますし、業務は変えたくないんだけど今の作業だと入力が面倒で時間を取られる(その時間で本当はできることをしたい)とかであれば、既存業務を踏襲するシステムを作らなければなりません。そう、「目的」こそが最後に出来上がるシステムを左右する最大のポイントです。
システム屋さんはともすればお客さんの仰せのままに何でも作りますとなりがちなんですが、本当はそれだとシステムを作る効果は半減どころかかえってマイナスになるということを心に留めておいて下さい。
ただし、システム化したい業務の業務分析は絶対に必要です。手作りシステムや、人に依存している業務だと、何をやらないといけないかをはっきりわかってなくて、いざシステムを使ったテストを始めてみたら業務が全く回らないというオチも無いことではありません。これはシステムを改善する場合も含め、設計時に必ず必要なものです。特に初期データ的なものや過去データ的なものが必要な場合にこれを把握していないと、システム化の鬼門、「データ移行」がプロジェクトに大きく陰を落とすことになります。マジ危険。

「予算感は最初に伝えましょう」→「予算感は最初に伝えましょう。また、上限金額を意識して交渉しましょう」

できること、できないことは予算によって大きく違ってきます。システム屋としては予算がイメージより少ない場合、必ず機能を削ってきます。例えばパッケージを提案するのはその一つです。カスタマイズ性を犠牲にしています。また、場合によってはバックアップシステムを削ったり(業務の重要性によっては大変危険)クラウド型を提案(扱い次第では有用だが、システム部門がないと運用で躓く可能性あり)して来たりします。
どうしても譲れないところを抑えつつ、不要なところを削っていくのもまたシステム構築の醍醐味とも言える部分では有りますので、めんどくさいですがちゃんとシステム屋さんと交渉しましょう。これ以上ビタ一文出さないと宣言するよりは、「このくらいの幅で上手く収まるように幾つか案を考えてくれませんか」的な要望のほうが予算感とマッチした提案が出てくると思います。

「社内の稟議フローを伝えましょう」→「要望には開始スケジュールを明記し、またその通りに契約できるように社内調整をしましょう」

最近は法律も色々厳しくて、正式に発注がされてからでないと費用をかけられないという会社が増えています。出来る人がいる会社ほど優秀な人材が出払っている可能性がありますので、ぽっと出の案件でいい担当者がアサインできるかどうかはタイミングに掛かっていると言っても過言ではない部分があります。とはいえ、それなりの規模の案件であれば「取れる前提」で担当者を調整することも結構有ります。
大事なのは、社内の稟議フローではなく、発注者として契約に責任を持つことです。社長の鶴の一声がどうとかは言い訳です。
ただ、実際にそういう問題が発生してしまう懸念がある場合、システム屋さんにはある程度その旨を伝えておくことは良いことです。仮にそれがせいで決めたことを覆さなくならなくなると、システム屋さんは二度とあなたの会社を信用してくれない可能性があります。

「システム屋をちゃんと飼い慣らしましょう」→「システム屋と信頼関係を築きましょう」

これはね、大変難しいですね。元々、契約までの間はシステム屋側も営業が中心になるため、腹の探り合いになってしまうこともありますし、契約したらしたでシステムのことをあまりにもわかってないと「あの人話通じない…困る…」みたいに思われてしまうかもしれません。
大事なのは、飼いならすという感覚ではなくあくまで仕事のパートナーとして信頼関係を築くことです。まずは人として、また、会社対会社として、お互い対等の関係を確認することです。システム屋にとって発注元はお客様ではありますが、あくまで「お金をもらってその分仕事をする」関係であり、何かを恵んでくれる人に尽くす家畜というわけではありません。そのことを意識し過度に「自分は客だぞ」と思わないというのが大事だと思います。なぜならSIerの担当者は契約に書いてないことまであの手この手でねじ込もうとするクライアントに辟易しているからです。

で、大事なのは?

(まっとうな)システム屋にとってはお客さんが喜んでくれることと自分たちがきちんと収益を得ることがどちらも大切なことです(お客さんが喜んでくれないことにはお先真っ暗ですからね)。いい加減な仕事をしたいと思っているわけではありません。なので、元増田が言っていることは大切なことでは有ります。
ただ、システム屋さんとのつきあいかたを知らないと、ボッタクられる恐れはもちろんあります。どちらかというと「なんでこんなにかかるの?」という疑問のほうが先に立ちますがそれも含めシステムに掛かる費用のイメージがないことが問題です。
一つの原因は、商品と違ってシステム構築は言ってみれば「人件費の塊」ですから、ぱっと見どのくらい費用がかかるかってのがわかりにくいということにありますよね。ここのところは正直相場観をつかむための勉強をするしかありませんし、そういうコストをかけられないのであれば、そこも費用だと思って発注するしかありません。ぶっちゃけ、システム屋としても客があまりに素人であることはリスクであり、ある程度リスクを積む案件として扱われると当然金額も高くなります。
一方で、「あ、これありがちなやつだ」という案件であれば、以前作ったシステムの転用などで費用を抑えることも可能です。
こういった話は当然ながら突っ込んだ話をしていかないと出てきませんから、いかにしてシステム屋さんに「自分が実現したいと思っていること」を伝えていくかです。これは一番最初に述べた話でも有りますね。要求が細かい必要は少なくとも当初はありません。ただし、要求が細かくないと精度の高い見積もりは出てこないです。曖昧にしか依頼できない場合、きちんと提案を聞いた上で、突っ込んだ話をしていく機会を作るのが良いと思いますし、安いところも高いところもそれなりに言い分が有ります。そこで出てきた言い分を元に、もう一度詰めていく余裕が有るのがよいのですが、そこまで余裕が無い場合、それなりに高い価格を提示した会社に予算感を伝えた上で、要求を詰めればその費用感に収める提案はできるか、と聞いてみるのも良いと思います。また、価格の高い会社の提案と低い会社の提案を見比べて差のある部分を低い会社に「こういう部分はどうするのか」と質問してみるのもよいですね。

安く上げるにはどうするか

予算を考えなければ、ベストな選択は多少高くてもしっかりとした会社(会社の信用度、知名度、実績(他にどういった先と仕事をしているか)はわりとあっさりわかります)を選ぶべきだと思いますが、そうは言ってもそんな大したことをするわけではないので安くあげたいというのは普通でしょう。そういった場合、リスクを自分たちで引き受ける部分が少なからずあるため、事前にある程度の調査はしておく必要があります。
・そのシステムは出来合いのものがないのか(なんとか奉行で済むものだったりしないか)
・自分たちの業務プロセスは変えられるのか、変えられないのか。
・そもそもシステム化すべき業務なのか
・同業者はどんなことをしているのか
このあたりを抑えておくことでシステム屋さんと会話するときの武器となります。特に、話の発端になった「頑張ればAccessで作れる」程度のシステムは確実に頑張ってAccessで作ったほうが安いので、お金を掛ける意味をよく考えることです。それが、システム屋に発注すべき理由になってくるわけですし、そこが一番システム屋に伝えなければならないポイントですからね。
時間とお金をかけたシステムが出来上がってみたら「ああ、あれがちょっと出来るだけでよかったのになんでこんなでかいシステムになっちゃったんだろう…」ってなることは珍しいことではありませんから!