Milesを知って衝撃を受けたあの日
大学に入っても楽器を続けようと思った。Tromboneという楽器はわりとジャンルを問わなくて、選択肢は多い。とりあえず、吹奏楽サークルにいってみる。「3年もやってたんだ。じゃあ僕より上手いねえ」という2年生の談。なんだ、大学の1年間はそんなに密度が薄いのもなのか?高校の同期が先輩になるのもあって、ちょっと敬遠した。
中庭で、ビッグバンド(というらしい、程度の認識だった)が演奏をしている。こういうのもいいかなあ。
「君、こういうの興味あるの?」おいでなすった。「うちは、こことは違うサークルなんだけど、同じようなことをやってるんだよね。ちょっと説明でも聞いてかない?」
まんまと他サークルの演奏によって釣られる僕。
「どこ出身?あ、その高校ならこの人やこの人がOBだね。」知らない…けれど、きっとそうなんだろう(実際に後で正しいことはわかった)。
「うちに入ってちゃんとやると、上手くなれるよ」なんという自信!これは、入るしかないのか!
結局一度もそのサークルの演奏を聴かずにとりあえず入ることになった。我ながらなんと適当な。流されやすいタイプなのです。
語学のクラスで妙な匂いを感じた。あいつ、ボントロ(トロンボーンの業界用語)吹きだ。なぜかボントロ吹き人種みたいなものがあり、ピンと来ることが多い。楽器をやっている人はなんとなくわかる感覚だと思う。案の定、そうだった。しかも、同じサークルに入ろうとしているらしい…
後で知ったことだけど、僕の入ったサークルは、名うての「訳がわからない曲ばかりやる」バンドであったようだ。しかし、ここからしばらく、いわゆるスタンダード、グレンミラーとかカウントベイシーというやつに浸ることになる。後に、他のバンドの友人にその話をしたら嘘だと思われた。酷い。
とはいえ、Jazzをやったからにはビッグバンドだけじゃなくて色々聴かなきゃねってことで、定番のものを買いに走るわけだ。Jazzといえば帝王マイルス・デイビス。どの入門書でも進められる、Kind of Blueというアルバムを買った。しかし、何が良いのかさっぱりわからないのだ。一つには、僕がいわゆる「アンサンブル」というものをそれまでやってきたのが原因だろう。吹奏楽は大編成のアンサンブルで、譜面を演奏するものだ。ビッグバンドも、大枠でいえばそうだ。もっとも、吹奏楽の感覚を持ち込んだバンドのJazzでなさといったらフランス人にフランス語でしゃべったら英語で返されたくらいの恥ずかしさがあるものだが。
とにかく、わからないので、放置された。名盤といっても聴いて良さがわからないのでは価値がない。
平和なビッグバンドを聴きまくる。アメリカ西海岸のバンドは陽気で、ロスのスタジオミュージシャンが超絶テクでさらっと吹くので聴いていても気持ちが良い。曲の構成とか、ソロのフレーズのかっこよさが段々わかってくる。聴いているだけではダメで、実際に演奏していって、自分がJazzのイディオムを身につけていくことで、より理解が深まるわけ。このリズムのはずし方が何でカッコいいか。テンションノートがなぜ心に響くか。
夏に、コンテストがある。サークルが「わけわからない曲ばっかりやる」と評されるのは、こいつのせいだ。コンテンポラリー系を押し通すバンドであることをここで知る。選曲の際に延々と掛かる曲に段々洗脳される。今まで聴いたことのない音楽。
- アーティスト: Jim Mcneely
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少しずつ、色々なもののかっこよさがわかってくる。僕はクラシック畑の人間といってよい。親がプロ奏者で家では演歌とクラシックしか聴かないってのもあったと思う。正直ポップスやロックのよさは良くわからなかった。Jazzをはじめてから、そういうものを耳にする機会も増えた。クラシックの基準で音楽を聴く必要はないということがわかった。
そうこうしているうちに一年が過ぎ去った。何の気なしに、何の感銘も与えてくれなかった、Kind of Blueをプレイヤーにかけた。
- アーティスト: Miles Davis
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