オリンパスのスクープの威を借るFACTAというメディア

オリンパスの不正の件で一躍有名になった、FACTAという月刊誌がある。それ以前に話題になった記事なんかを見ているとどうも高級ゴシップ誌の印象しかなかったんだけど、サイトには中々すごいことが書いてある。特に面白いのは購読者の紹介ページwそんなのあるんだw

FACTAは企業の経営層をはじめ、第一線で活躍するビジネスリーダー、エコノミスト、アナリスト、弁護士、公認会計士、研究者、政治家、官僚、マスコミ関係者など、本物の価値ある情報を必要とする皆様に愛読されています。

FACTA ONLINE

んで、麻生太郎挨拶しているというwww

昨日目に入った記事ではこんなところに切り込んでいる。

拝啓
時下ますますご清祥のこととお慶び申し上げます。弊誌は創刊6年の調査報道を中心とした月刊誌で、昨年のオリンパス不正経理のスクープでその名をお聞き及びかと存じます。

さて、弊誌は7月20日発売号で、「JPドメインの公共性の担保」について記事を掲載する予定です。社団法人JPNICは、JPドメインを登録管理する株式会社日本レジストリーサービス(JPRS)の責任を評価する立場にあります。そこで、この件に関しいくつか質問をさせていただけましたら幸甚と考えました。

JPドメインについての質問状:阿部重夫主筆ブログ:FACTA online

挨拶からして、脅しが入っていますww要は不正を暴くよ怖いよってことだ。
目の付け所は良いと思うんですよ。でも

JPNICの回答は9日の期限には届かなかった。JPNICに電話で問い合わせしたところ、「回答は作成したが、内部で回覧中で、そのOKが出ないと回答できない」という。「いつOKが出るのか、見通しは? こちらも原稿の締切があります」と聞き返すと、「いつになるかはわからない」と要領を得ない。「できるだけ早くお願いします」とせっつくほかない。11日夕になっても届かず、「未回答とみなして見切り発車します」とメールを送ったら、行き違いで回答が届けられた。

1週間もかけて、こののんびりした対応、やはり独占に甘えて、床の間にふんぞり返っているとしか考えられない。こんな回答である。

一方的に質問を送りつけておいて「こちらも原稿の締切があります」ですよ。どうもスクープに気をよくしてふんぞり返っているとしか考えられない。

うん、質問の内容とか、そんなに悪くないと思うんだ。でも、相手の態度を決め込んじゃうところがなんとなくブーメランに感じるし、尊大な態度で総会屋のやってる経済誌みたいな空気を纏ってしまっている。

FACTAについては忘れられない一件がある。Felicaの暗号が破られたという衝撃的な報道だ。
しかし、これは…

パソコン用リチウムイオン電池の発火問題、ゲーム機「プレイステーション3PS3)」の部品不足に伴う出荷の遅れなどで屋台骨がきしみ続けるソニー。深刻な品質問題を抱える同社に新たな難題が浮上した。ソニーの誇る非接触IC技術「FeliCaフェリカ)」の暗号が破られたのである。

ソニー――暗号破られた「電子マネー」:FACTA ONLINE

という衝撃的な記事。中身は以前は読めたようなきがするんだけど今は会員しか読めない。
で、実際になにがどうなの?という話は一切なかった。ちなみに、こんな記述があった。
FeliCaは共通鍵方式を採用したため、公開鍵方式に比べて破られやすい」
ちょっとセキュリティーに詳しい人ならこのことが暗号方式についての理解不足を露呈していることはすぐわかるだろう。
そして

本誌が報道したように、フェリカは暗号が破られてセキュリティーに問題があるだけに、パスモの足並みの乱れはフェリカの全国制覇に影を投げかける。

首都圏私鉄が一斉に「パスモ」大所帯すぎて不協和音:FACTA ONLINE

と、実際に破られたという証拠もないのに報道した、というだけで事実になっているというおかしな記事を書いている。

この問題もだいぶ風化したな、と思っていたけど、どうも尊大なメディアという印象が強くなってきたので一度警鐘を投げておいても良いかと思った。
この編集長はこんなことを言っている。

ITMediaは単に、FACTAへの取材に失敗しただけなのだ。「客観的に見て、説得力に欠ける内容になっていることは否めない」と評しておられるが、冷たくあしらわれた腹いせですかね。

追っかけ取材の礼儀を教えてあげましょう。まず、自分独自のソースを持ちなさい。電話取材ですまそうなんて甘い。誰もほんとのことなんか言いやしない。この記事はソニーの広報とFACTAに電話をかけただけで、ベンダーや暗号の専門家、felicaのユーザーに取材した形跡がない。

かわいそうなものだ。3分の1はFACTAの記事の引用、3分の1はソニー広報の言い分の引用、最後はご自分の判断とFACTAのコメントである。かろうじて体裁を整えているだけで、足弱記者の典型と言っていい。引用とまた聞きだけで一丁あがりなのだ。

もういちど「ソニー病」3――太鼓もちメディア:阿部重夫主筆ブログ:FACTA online

これは、FeliCaの問題に対するITMediaの記事に対する反論というか文句である。当時ITMediaの記事を読んだ時思ったのは「そりゃあんな技術面で支離滅裂な記事に対してまじめに取材するのも馬鹿馬鹿しいよな」というくらいのものだったけれども。なにしろ「ある暗号研究者はビットワレット電子マネー、エディのカードを使って解析を試みた。研究者が衝撃を受けたのは、カードの表面をはがしていくと簡単にICが露出してしまったことだ。」なんていう記事なんだから。そりゃ剥がしたら露出するでしょwどうやったら露出しないとでも?これを読んで「ヤバイ!暗号化が破られた!日本が揺らぐぞ!」なんて考えるほうが頭がおかしい。
結局、事実としての暗号化が破られたという報道は未だになく、また、FeliCaによる被害もなく、交通系のみならず様々なところで利用され、ベースの規格はNFCとしてグローバル化して、という現状だ。

どうもこの一件があるからというのもあって、FACTAというメディアはイマイチ信用しきれない。ましてや、オリンパスの件を持ちだして回答を迫るような挨拶を質問上に書いてしまうというのが見苦しい。
オリンパスの件は編集長ではなく山口義正さんの手柄だろう。もちろん、一般のメディアでは報道できなかっただろうそれを掲載し、社会問題にまでもっていったFACTAの果たした役割はある。ただ、それをもってFACTAというのが取材力、影響力があるというのを自認し、また脅迫まがいの質問状を出すようではお先真っ暗な、真のジャーナリストの対極となる悪い従来型報道機関になっちゃうよ。それよりも悪い総会屋の匂いもする。

最後に、最近興味深い記事があったので紹介しておく。FACTAの資金問題に触れられている。冒頭で紹介した購読者紹介を頭に入れておくとなんとなく面白いかもしれない。
http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20120702/314559
企業の「飛ばし」も問題だが、日経本誌から出身ジャーナリストに至るまでの「飛ばし記事」も今まさに社会問題になりつつあるよね。