「多重請負いは必要悪か」と問う前に考えたいこと

この業界入って15年近くになりますが、当初は結構めちゃくちゃだった契約関係もだいぶ整備されてまともなものが増えてきたという印象があります。そのまた昔はもっとむちゃくちゃだったんだろうな。
よくSI業界の問題点として挙げられる多重請負いですが、そもそもそういった業界構造は悪なのか、そうだとしたら何が悪いのか、ということをきちんと考えないで「必要悪」なる言葉で「しょうがないんだよなー」と丸めてしまうというのはよろしくないと思わなくもないんですよね。

まず、いくつかのことを明確にしておきたいです。

多重請負≠偽装請負であることについてまず補足的に。現場では実質的に偽装請負と言われる形態にどうしてもなりがちです。何が偽装なのかって指揮命令系統。元請け→2次請け→3次請けってなった場合に大体2次請けが元請けから見た「1チーム」になるから、2次請けの人は3次請けの人をあたかも自社の社員であるかのように成果を出してもらわなければいけない気になってしまいます。3次請けに上位リーダー的なスキルを持った人がいて、その人が元請けレビューに出ちゃったりすると厳密な意味ではおかしいって話になりますよね。2次請けは3次請けの「各メンバー」の進捗管理を直接してはいけないなどもあります。うん、現場としてはそれって無理なことが多いですよね。

つまり、本来「人手を増やす」という目的で下請を使うということ自体がNGになってしまうんですよね。
人手を増やすという目的に最適なのはやはり「派遣」なんですが、2重派遣は法的にNGなので、結果的に2次請けレベルまでがSI屋として会社を構えることが出来て、残りは全部派遣登録した作業者と成らざるを得ないことになります。これだとなんか利権っぽいですね2次請け以上ってw
SI屋をやるためには2次請け以上の立場を得なければならないことになりますが、小さい会社とか新しい会社とか無理ですよね。

多重請負のもう一つの問題は言わずもがな、多重になることでどうしてもマージンを取らなければならないので、結果として下に行けば行くほど収入が下がるということです。

というあたりを踏まえて。

大規模なシステム開発プロジェクトを立ち上げる際、必要なスキルセットを備えるIT技術者を素早く、大量に調達する仕組みとして、全国に張り巡らされた多重下請けネットワークは恐ろしく効率が良い。

多重下請けは本当に必要悪なのか──ポジティブな改善策を考えてみる | 日経 xTECH(クロステック)

まあそりゃそうですけど、次が衝撃的。

今回、取材した大規模プロジェクト経験者は、「下請けネットワークを辿り、9次請けまで辿って、ようやく求める業務知識やスキルを備えた人材に巡り会うこともある。このネットワークなしには、適切な人材にアクセスするのは難しい」と語る。

多重下請けは本当に必要悪なのか──ポジティブな改善策を考えてみる | 日経 xTECH(クロステック)

ええええええ?何そのクソスキルは。しかも人を一本釣りみたいな話?それ下請けって話関係あるの?
こんな理由で多重請負いを擁護する必要って全くないよね。下請けネットワーク()とかアホかと…

次もなかなか衝撃的です。

違法行為を監視する東京労働局は、下請け企業による二重派遣を見破る手法の一つとして、ユーザー企業や元請けSIerに「健康保険証のチェック」を勧めているという。名刺や社員証は、派遣先企業の名義で作っても違法とはいえない。これに対して健康保険証は、あえて偽造しない限り、本来の雇用主の社名が記されているはず、というわけだ。

多重下請けは本当に必要悪なのか──ポジティブな改善策を考えてみる | 日経 xTECH(クロステック)

これホントなのかなあ。現場でメンバーの保険証を出せっていうのは請負先に要求することとしては一線を超えているように思えます。

この話が本質を外していると思うのは、偽装請負とか二重派遣とかが「法律に違反している」ということであるわけですから、法律に触れないような形で運用できれば別に悪いことなんてないんじゃない?ってことなんじゃないかと思うんですよね。

従来の受注あっせん企業、IT派遣企業のほか、ランサーズやクラウドワークスといったクラウドソーシングサービスが登場したことで、人脈や営業力に乏しいフリーランスプログラマーでも、安定して案件を受注できるようになった。

逆にユーザー企業も、IT派遣業者やクラウドソーシングを通じ、フリーランス技術者の市場に容易にアクセスできるようになった。

多重下請けは本当に必要悪なのか──ポジティブな改善策を考えてみる | 日経 xTECH(クロステック)

フリーランスって話で言うとたしかにそのとおりなんだけど、フリーランスで出来る仕事とSI屋で出来る仕事ってのはやっぱり差があるし、SI屋でやりたいって人もいると思うんですよね。そもそもフリーランスでやっていけるだけの実務を身につける場ってどこだっけって話も。

スゴイ単純な話をしますと、多重請負い構造であることで起きる問題の結構な部分は「沢山金を出す」ことで解決できるんじゃないかと思うんですよ。多重度が上がるのは余剰がなくてコスト削減しなければならない結果として上の会社が社員を切り詰めているから。解雇規制をゆるめて出たり入ったりを容易にするってのもよく言われますけど、それって結局技術は蓄積されないし賃金は多分上げざるを得ないし会社からするとあんまり嬉しくなかったりもするんですよね。

じゃあ、景気が良ければ多重請負いでいいんだって話かというと、ちょっとそれも違いますよね。金で解決するってことはある意味無駄金が発生しているということになります。もっとも日本全体の雇用にお金が落ちるという話ではそれでもいいんですけど、会社単体で見た場合ね。

大規模システム開発はどんなに効率化しても人海戦術の部分はどうしても出てきてしまいますし、そのためにSI屋がいるといってもいい部分はあります。

根本的な問題はシステム開発ってのが多分に「高リスク業務」だということなんじゃないかと思います。多重請負いになってしまう理由の1つが人材としては有用だけど会社として体力がない会社に発注するリスクという点にあります。要はなんかあったらお前責任負えるの?ってことですな。会社が多段でたくさんあることは責任(リスク)を分散するということであります。逆に言うとユーザー企業が自分たちの責任で仕事を発注しきれないということですね。

こういうあたりを踏まえた一番の解決策は、やっぱり景気が良くなることなんじゃないでしょうか。企業が(金銭的)リスクを取り始めることでITに従事する人の環境は劇的に変わってくると思います。僕がこの業界に入ったことはまだITバブルの残滓があり、客もSIerも冒険をして活気があったように思います。景気良くなってほしいなあ。