IT業界に蔓延る「仕事を減らさないための非効率化」からの脱却に向けて

若干タイトルは煽りなんですけどね。

日経コンピュータ木村さんの記事は結構身につまされることも多く、考えるきっかけにもなって好きなんですが、今回のこれもなかなか厳しい。

そこで、IT業界の時代遅れのビジネスモデルと業界構造、つまり人月商売と多重下請け構造が、どれだけ多くの問題点をはらみ害毒を撒き散らしているかを、一気に指摘してみようと思う。実は、その害毒はIT業界だけでなく、日本全体の競争力をも蝕んでいることも分かるだろう。

IT業界の人月商売、多重下請けがもたらす45の害毒 | 日経 xTECH(クロステック)

もう、IT業界って言葉は広くなりすぎちゃって、SI業界を指してIT業界って呼ぶのは豆腐業界を指して食品業界と呼ぶみたいなレベル感になってきていると思いますが、僕はSIerの中の人なのでSI業界ということで多少未来に向けた話をしてみようと思います。
以下、引用はすべて上記エントリより。

IT産業は本来、知識集約型のハイテク産業のはずだが、日本のIT業界のSIビジネスの場合、技術者のいう名の“労働者”を大量に動員する労働集約型産業の様相が強い。超大型案件などで熟練した技術者を集め切れなければ、技術者と言えないような新人を動員することも辞さない業界だ。

「本来」というのは若干引っかかるところではあります。ハイテク産業自体は使われているテクノロジーがハイテクなだけであって、「労働者」がいない産業というわけではないんですよね。SIも同じで、問題は当時ハイテク今ローテクなものが放置されていることが多い、という問題であって、結果として労働者の必要スキルや必要人数がアップデートされていかない、という問題である、と考えています。
なぜローテクが幅を利かせてしまうのか。ここにはたくさんの要因がありますが、特に「既にあるもの」にこだわる企業、もっと言えば制度に問題があると思います。もちろんそこにはリスクという考え方もありますけど。

労働集約型のビジネスなので、ITベンダー各社は米国企業のような特徴ある商品や強みを持たない。属人的な技術力の優劣はあるものの、基本的にどこも似たり寄ったりの金太郎飴である。だが、多重下請けのため単価は全く違う。つまり日本のIT業界はSIerを頂点とする明確な“格差社会”なのである。

ここも若干飛躍している部分があると思います。「労働集約型のビジネスだから」ではなく「総合ベンダーだから」という面が大きいことでどうしても出てくるものが横並びになってしまう。単価の違いは安心料であって、もっというと賠償金の払える余地だったりします。中規模SIerの中の人としては、「あいつら単価俺らより高いくせに技術力なさすぎだろ」って思うことはよくありますが…でもあの単価で一括請けするリスクは負えませんよ。
格差社会っていうのは企業体力の差であって、大きな案件ほどそれが目立つということにはなります。逆に、小さな案件になってくると単価の問題で僕たちが活躍する局面もあるんですよね。この問題においてはさらに下側のSIerなのか人材派遣業なのかわからない会社群が労働者を出してくる、という構図の部分を改善する必要があるとは思います。ぶっちゃけIT業界が適正化するとこいつら全部失業なんじゃない?って話…

しかも好況のときは良いが、不況になり開発案件が減少すると、真っ先に仕事が無くなるのが多重下請け構造のピラミッドの底辺にいるITベンダーだ。多重下請け構造の労働集約型産業では、必ずこうした企業が“雇用の調整弁”となる。このため、その調整弁役を進んで引き受けるようなブラック企業にも、格好のビジネスの場をIT業界は与え続けている。

これはその通りで、結局IT(特にSI)業界は労働市場の規模が本来必要とされるはずのものよりも過大に評価されているし、実際に過大な仕事をやっていると思いますね。

さらに、ITベンダーは従来から一貫して“SIの工業化”を目標に掲げてきたたが、一向に実現せず手工業の域を出ない。工業化とは効率化である。当然SIにおいても開発ツールなどを活用し、効率化を推進すべきなのだが、人手がかかるほど料金が増える人月商売ではそのインセンティブがあまり働かない。

これもその通りだなと思う反面、今、SIerが直面している課題って「仕事をとってもとっても売上は増えるけど利益がBP費用に吸い取られてく」って問題なんですよね。利幅が薄くなってリスクだけが拡大していく、というのは看過しえない問題であって、効率化を行うインセンティブがだいぶ働くようになってきました。特にテストやドキュメントの部分を増やして作業員のマージンで稼ぐというのが現実的に厳しくなってきています。

そんなわけなので、日本のSIビジネスは世界の最先端ITトレンド、そしてネットビジネスのような最新の国内ITトレンドとも無縁の存在となる。主に発注元が変化を嫌うIT部門で、間接業務向けのシステム開発が中心ということもあり、枯れ切った技術を使って人海戦術の仕事を続けているうちに、日本のIT業界は完全にガラパゴス化してしまった(関連記事:SIガラパゴス)。

日本はIT化が早かったこともあって、古いシステムの呪いを受けているのは確かです。しかしながら、「最後の大型案件」といういくつかのプロジェクトが終わってくる3〜5年後には企業のシステム投資の潮目は変わってくるとみています。銀行なども元々対顧客じゃないところでは実験的なテクノロジーの導入をして実績を積んでから展開していくことが結構多いです。

その結果、日本ではIT技術者の多くが最先端の技術やビジネスを切り開く世界ではなく、SIという付加価値の低い世界に固定された。これはIT業界だけでなく、日本の産業全体にとっても大きな損失である。しかも、付加価値の低さゆえに、多重下請けに出される業務の多くがアジアでのオフショア開発に代替されつつある。

これもその通りだと思いますが、重要なのはSIの世界そのものがビジネスはともかく技術者として付加価値が低い存在かというと必ずしもそうではないと思うのですよね。大規模だったり超高速だったりするニーズの世界において、最先端の技術をいやおうなしに採用する(これはアプリではあまりないんですが、基盤では「世界初」の技術も多かったりしますからね)機会も多いんですよ。
でも、僕はここは非常に問題のある部分の一つだと思っています。それは「若者の成長の機会が少ない」からなんですよね。ある程度出来上がった技術者がグランドデザインから入っていくにはこれほど面白い世界はないんじゃないかって思うことも少なくないんですよ。でも、バックグラウンドがない若者が「一通りできるようになる」という環境ではない。下積みしようにもオフショアにとられる。これでは未来は暗いですよね。
現実の問題として、ITベンダー、ユーザーのシステム部門、下請けBPの全てにおいて、過去OJTで育って/育ててきた環境を失っています。結果として、システムのわからないまま年次だけが上がっていく「技術者」が量産されています…

いったんこの辺にしておこうと思いますが、大事なのはSIerの中の人はわりとこの問題については自覚があるってことですね。世の中好景気ですけど、IT(SI)業界の好景気はあと3年で、それ以降はかなり仕事が集約されていくとみています。生き残れないSIer(や実質人材派遣会社)がつぶれていくのもそのあたりからでしょうね。

不要な人が減っていかないと改革は難しい部分はあります。そのために業界全体においてリストラが進むのではないか、と僕は思っています。