多重下請け構造より悪いのは「過度なリスク管理」

多重下請け構造が社会悪になる、というのは場合によってはそうでしょうけどね。

そもそも「事務システムのIT化」ってのは効率化であり、効率化とはともすればマージンを削ることで成り立っているわけですから、その部分におけるIT化ってのは本質的にはリスクの移転(人的ミスやコストからシステムリスクへの)に過ぎないんですけど、もちろん十分な費用対効果があることによって成り立っているわけです。
んで、最近やっているような事務系のシステム投資でどんどん効率化を目指していくってのは業績不振だからリストラしているのと似たような負の効果が発生していることに長い間みんな気づいていなかったんだけど、ようやく問題が出始めた、というのが現状なんだと思うんだよね。

多重下請け構造が昔より問題になっているのはそういう綻びの一端なんだよね。

その結果、同じような作業をしても、どの階層にいるかで給与レンジは大きく異なり、業務内容に対する適正な対価が得られないという事が発生します。

IT業界の『多重下請け構造』は社会悪になりつつある - paiza開発日誌

僕は3階層までの現場にしかいたことがないからわからないんだけど、下請に出す時ってそこに組成されるチームとその出せるであろう成果見合いで業務委託をするわけですので、大きいチームに委託すればするほど格差は減っていくんですよね。僕らは下請を食わすためにリスク取って仕事してるの?って思ってしまう場合もあるくらいです。マージンの額は上がるけど残る金額の比率が減っていくわけです。つまり、リスク対収入が悪化している。
とはいえ、当然だけど、求めている成果によって値段は変わります。優秀な人が必要な仕事を委託する場合であれば、金額が高くても飲まざるをえない反面、そうでない仕事の場合はいくら優秀でも金額が高ければノーサンキューってことは良くあることです。下流にいる優秀な人はその能力に見合わない仕事をさせられる可能性は少なからずあります。
もっとも、本当に優秀な人は引く手数多ではあるんですけどねえ…

設計は上流、実装は下流という意識があるため、上流工程の人たちは仕事の場でも実装工程の人を下流の人達、下々の人達という扱いをしがちにもなる訳です。自社サービスやってるとこういう意識って生まれる事はほとんどないですが。

これもちょっと可哀想な現場の話ですね。ただ、構造上、能力的に「下々の人達」が集まってしまう会社はありますよ。でもね、「下流の人達」の実力って結構プロジェクトの成否に関わってくるので、交換可能な部品に過ぎない人と、交換が(そう簡単には)利かない人が出てきた場合に、後者の人はやっぱり大事にされがちです。委託側の立場から言うと、「あなた方のチーム人事には直接口は出せないけど、彼いなくなったら委託している成果をちゃんと出せるの?」みたいな「委託するに足る実力があるかどうか」は常に評価しないといけませんしね。

SIerの人達と話していると、プログラマーに対する認識がこの認識と特に変わらなくて驚く事が多いですが、詳細設計とやらで完全なロジックが組まれていて、それをプログラミング言語に置き換えるだけだとしたら、それはむしろコンパイラなのではないか?と思ってしまいます。

そういう部分は確かにあるんですけどね。だってそれしか出来ないんだもん…

また都度都度人がかき集められるような現場では、作業の基準は一番レベルの低いエンジニアでも仕事ができる状態にしなければなりません。そのため一番レベルの低い人に合わせた環境、ツール、ルールになり、出来る人の能力を殺す非生産的な仕組みになっています。

これはそうでもなくて、例えばテストなんてのは属人性があっちゃダメだし、ダメな人を何とかするためのツールは出来る人の能力を阻害するわけではありません。出来ない人基準のルールなんてのは実はなくて、足を引っ張るのは理想のXXを実現するためのツールやルールだったりします。

総じて、この手の現場で起きていることは「SEとしての能力不足とそれを補う自己学習不足」です。つまり、プロの現場としての自覚が足りていないと思っています。それは冒頭で述べたとおり、現場で学ぶことのできた昔に比べてリスクを取らなくなった現場のせいでもあります。「SEが優秀だったらこの程度でできる」ことを「優秀なSEなんていない!だからこのくらい掛かる!」と見積り、かつ「こんだけ見積もったんだからこんだけ人を投入しなければならない!」が数合わせになって、かつ後から「不況の折予算削りたいんだけど」ってやっているようなおかしなプロセスがあるからですね。多重下請け構造自体はこういうプロセスの犠牲になっているんじゃないかな。

箸にも棒にもかからないレベルの技術者でもなんとか仕事を与える、という事自体がこういう自体を招いているので、そういったエンジニアが絶滅するような環境を作らないとなかなかこの問題は解決しないように思えます。
業界構造上の問題も確かにあるとは思いますが、1エンジニア視点で見た時にこういう問題で苦しんでいる人はそれなりの割合で自分の価値を高められない結果の自業自得のだったりして。

特にクリエイティブではないシステム開発の作業の部分はこれからも安くなっていくし、そういう作業に従事するだけの人への報酬は当然下がっていくはず。もはやシステム開発のかなりの部分は「単純事務作業」と言っても良いし、多重下請け構造がなくなるってのはよりエンジニアの格差が広がる(その代わり生き方としてはバランスが取れ始めるかもしれない)ということなんだよな。

別に事務的作業をこなして「あー仕事した」っていう人生の過ごし方が悪いとは思わないんですけどね。そういう人とそれ以上の能力のある人を構造上分離していかないといけないんだと思うんですよね。