コミュニティーとしてのウェブと誹謗中傷の不思議な関係

前段の話もそうだけど、ブログ(に限らずウェブ全般)のツール感の受け止め方の乖離が専門家に誹謗中傷された感を与えるのではないか、と言う風にちょっと思いました。
つまり、ウェブだろうが、テレビだろうが、馬鹿なことをいう専門家は家人とか、友達同士で学校でとか、職場でとか、隣の研究室とかで「あいつバカだよね。わかってないにもほどがある。あんなのを専門家として出すテレビのほうもほうだよな」「まあ見た目だけはネタとして面白いからな」なんていう誹謗中傷が全力で飛び交っている可能性が大いにありますよね。もちろん、正当な評価でなくて、嫉みとかでもあったりしますが。
で、ウェブでこれをやることの問題は、結果として「公然と」誹謗中傷することになるから。
匿名だからばれないから誹謗中傷してやんよ >>>>> 越えられない壁 > 実名でもやるときはやるよ
なのであれば、確かに匿名をなくそう、っていう主張も現実感がある。ところが、ウェブってのは評論空間な訳ではない。

  • ちょっと言いたいことあるけど立場上いうと誰のことだかわかっちゃって相手に迷惑だから匿名で言うよ
  • 別に疚しいことでもなんでもないけど、周りに知られると説明とか面倒だから匿名で言うよ

的な、インターネットで交友範囲が広がったことによってできるコミュニケーション的な部分ってのもあるし、ただ単に見知らぬ人とわいがやしたいだけの人もいる。誹謗中傷はひとかけらも許されないからそういうコミュニティーは排除しましょう、って言う話であればわかる。認めないけど。
SNSに移行すればいいっていうのも実名だったらしないだろう、じゃなくて、見えないところでならやっていい、というように取られてしまいそう出し、そもそも、「あいつがあんなこと言っていた」って書かれてしまうのであれば、ネット以外の全ての場所でも誹謗中傷と「取られてしまう」発言が許されなくなってしまわない?極端な話、人間には感情など要らない、というポリシーの人でもない限り、そこまでは到達できないのではないかなあ(もっとも感情に全く左右されないのであれば誹謗中傷の大多数である非論理的発言など歯牙にもかけないはずなのですが)。
誹謗中傷が許される=自由な発言の場、というわけではないのだけれども、発言側の意図が全く考慮されない世界があったとすると、「お前の発言はオレのトラウマを刺激した。PTSDだ賠償だ」っていう訴えにも現実感がでてきてしまうのであるわけで。一方で、空気嫁とかここはそういう場ではないとか、仕掛けからは見えてこない暗黙コミュニティーとかムラ社会とかも生まれているように見える。
実名にすべき、と言っている人以外にも、こういったウェブでのコミュニティーのあり方を結構真剣に考えていて、あまりにシームレスなことに危惧を覚えてたりします。が、シームレスなのが魅力だと言う人もいる。リンクはフリーだいや来て欲しい人しか来なくていいとか、若干イデオロギー対立に近いけど。
実世界、すなわち実名とウェブのIDが完全に結びつくべきかどうか、についていうと、僕はまあ将来的には(限定的な形にせよ)そうあるべきだと思ってはいますが、今はインフラが整っていないというか、実名の担保がない。あと、今みたいな状態で実名を持ち込むと言うのはある種の格付けでもあって。事業者が空気読んで有名人を優先したり、と言うのは実社会の縮図として当然出てくるし、それなら全員匿名で横並びの方が公平だ。これね、どちらのケースにしても、受けて側のリテラシーの問題に結局はなってしまうし、ニセ科学とか捏造疑惑の問題を初めとして、そのへんはどのくらい期待できるかと言うと現時点ではあまり希望がない感じ。
だから、混沌としているかも知れないけど、今のウェブの状況と言うのはそれなりに健全で、統制されていないかも知れないけど、それなりに自律的にも思えるのです。外からのルールを押し付けると言うのはどうしても変容を招くし、それはそれでよい方向に進めばよいのだろうけれども、理念とかそういった部分は失われていくことは避けられない。グローバルな観点で見るべきなのかもしれないけれど、それはそれで、各国の特徴的な文化をフラットにしてしまう行為かも知れず、そうすべきだとはとても言えない。となると、やっぱりウェブと現実はできるだけ切り離されていた方が良いのではないか、と思ってしまうわけです。
誹謗中傷がウェブで存在しうるのは、ウェブからの現実への言及があるため。現実に対して何の実効力もないウェブってのもまあ確かに想像し得ないから、こういったものに関しての基準と言うのはある程度はなければならないんだろうけど、ウェブ対ウェブってのはどうもね。
難しいなあ。ウェブに地域性を持たせるとしたら、言語ぐらいしかないのかも知れない。この言語でやり取りされているコミュニティーは誹謗中傷可能とか言っても解決するわけではないけれど、見えないところで話されている、くらいの場所はあってもいいのかも。もちろん、それを他所に見せに行く行為自体をNGとしておかないと意味はないですけれども。