エルマークが保障してくれること

何の前触れもなく、エルマークが登場していたら、今のように活発に議論されていなかったかも知れないけれども、ダウンロード違法化の流れの中で、適法マークという象徴的な議論の体現として、エルマークが登場したわけだから、当然今の文脈は「エルマークは適法マークであるかどうか」に集中します。すなわち、ダウンロード違法化がされたときに「エルマークがない」ことを持って「情を知って」と置き換えられるということが果たして可能なのかどうかということが議論の中心な訳です。
そういった意味では半可思惟さんのところの図解はこの議論で危惧するところを端的に表わしています。

でもだからといってエルマークだけで適法サイトと違法サイトを見分けることができるからダウンロードを違法化してよいというのはあぶなっかしい議論です

【図解】エルマークと適法マーク - 半可思惟

※改行削除は引用者による
そう、エルマークには「表示されているサイトが適法である」ことを示す機能しかなく、「表示されていないサイトが違法である」機能をもっていないんですよね。ここが最も重要なところです。
iTMSなんかはもう既に勝ち組というか、一般に合法であると認知されているサイトですから、表示されていなくても「違法であるリスク」というのは限りなく小さい。でも、レコード会社との係争が発生したら、そうとも言えないかも。で、利用者側による「情を知って」の成立要件として、「適法マーク(あえてエルマークとはいいません)」がなかったことを知っている(まあ、あることを確認しなかった、くらい?)というのが認められちゃったりしたら、適法マークがない=違法と見做されるリスクがある、ということで、全くの合法的利用、すなわち、オリジナル曲の配布やマークを取得できない条件(取得できる条件がなんだかわからないので、お金の問題とか、所属の問題があったりするかも)での活動を阻害する、ぶっちゃけると、業界による囲い込みや利権団体の誕生や、そんないわゆる日本的な色々を想像してしまうわけですね。
もっとも、現在の時点では、エルマークはレコ協配下の楽曲を配信するサービスにしか関係ないとのアナウンスがありますし、これが適法マークになるわけではない。偽造のマーク使用という観点では

私には、そんな(商標法に違反するけれど、違法コンテンツを持たない)音楽配信サイトがあるとは思えない。であれば、「許可なくエルマークを付けている」=「違法コンテンツを持っている」であるのだから、違法コンテンツ側で取り締まればよいじゃないか、というのがはてブコメントの前半である。とはいえ、この前提に立つと、「許可なくエルマークを付けること」は、サイト運営者が「違法コンテンツを持っている」という意思表示になるので、運営者側にとってのリスクになる。別に「エルマークがないからといって違法サイトとはいえない」のだから、エルマークなんて気にせず、そのまま運営を続けるサイトがほとんどだろう。そして、この点が第二の問題である。

http://domainfan.com/CS/blogs/mohno/archive/2008/02/22/1775.aspx

以上の指摘はもっともだ。ここでの問題は、利用者側に区別がつかないことで、まあモバイルサイトのあたりでみんながツッコミ入れてたけど、利用者にエルマークが偽者でないことの確認責任を負わすことはナンセンスである。例えば、銀行のウェブサイトでURLやサーバー証明書を利用者が確認せよ、特に変なポップアップが出たら、というようなのは、利用者の利害に直結するから責任の一端を担え、というのは一種の合理性があるけれども、エルマーク偽造の場合は直接の利害(というか害)が発生しているのは、違法サイトと権利者の間である。利用者はそれに加担しているかも知れないし(違法がはっきりしているサイトについては明らかに加担しているけどね)、不注意で詐欺の片棒を担いだときに全く責任がないわけではないけれども、セキュアシールくらいの仕組みは提供してもよさそうなものだ。
ただ、合法であることを示していく、ってのは悪いことではない。少なくとも、「カジュアルな侵害者」の中には悪いことだと知らない人も含まれていると思うし、大したことじゃないって思っている人もいるかもしれない。でも、ここからだったら合法的にダウンロードしたり買えたりしますよ〜ってことがわかったら、ちゃんとやってくれるかも。問題は敷居の高さです。クリックすればダウンロード、というのと購入手続きってのはもうそれだけでだいぶ違うからね。ここは今後の課題だと思うし、そういう意味ではiTMSは上手くやっているよなあ。
利用者側の権利というか、商売とそうでないものの対立とか、インディーズみたいなある意味で真ん中に位置するところの話とか、そういったのを考えてしまうと、どうしても言い訳含みの立ち位置になってしまうのがこの問題の難しいところではあります。違法サイトは共通の敵のはずなんだけど、どうしてもそちら側、特に利用者について加担している感じになってしまうのが、難しい。オリジナルの皮を被った侵害行為ってのもありうるわけだし、商業コンテンツもマーケティング活動等で必ずしも有料とは限らないわけで、違法か合法かを利用者が判断するのってのは基本的には不可能なんじゃないかと思います。
そういった中で、エルマークというあまりにわかりやすく、あまりに脆弱なシンボルが登場して、またしても業界側を攻撃するかのような立場に自らの議論の軸を置かなければならないというのは遺憾なことではあります。合法なものはここにある、ということを示すという試みは、先にも述べたけど、いいことだと思う。で、人々の良心が期待できないほどダメダメな実態があるのであれば、ある程度規制される事はやむをえない部分はある。けれども、これにより、何事かの白黒が発揮するわけじゃない。いや、白は(少なくとも利用者が責任を免除されるというレベルでは)はっきりする。でも、黒をこれにより判定する未来だけは、避けて行きたいと思う。
カジュアルに取得することが出来て、ちゃんと調査をしていて、サイトの管理者の違反に対して厳正に対処して、と運用できれば、あるいは決め手にはならないけど、「情を知って」の判断基準の一個として成り立たなくはない気がするけど、まあ多分そこまでは行かないでしょう。サイトの管理者が「このサイトは合法でい続けるために頑張っています!」という宣言を示すくらいのマークが丁度いいのかも。