航空管制の問題と医療危機はちょっと違う問題だと思う。

僕の観測しているところではどうも同じような問題と捉えられているように思えます。

「明日からというか、今日から管制業務はできない」。籾井康子被告は判決後の会見で、現場への影響をこう語った。一瞬の「言い間違い」が厳しく断じられた点について、「現場に不安と緊張を強いるもの。安全にとって有害」と声を詰まらせた。

http://www.asahi.com/national/update/0411/TKY200804110284.html

そうなのかなあ。医療について言えば、常に完璧最高の医療を行っても、それでも助からないケースがあり、また、常に完璧最高というのが現実的ではないという現場において、常識的な範囲の措置を行ったにもかかわらず、行政罰どころか刑事罰を受けてしまうという理不尽な問題であります。
しかし、航空管制はそうではない。常に完璧を要求されるし、ミスは起こりうるとしても、ある程度それをカバーする仕組みが出来ているから、よっぽどルーチンワークになって緊張感に欠けているような状況にならない限り、そうそう事故なんて起こるもんじゃないと思うんだけど。医者で言えば腹の中にメスを落としたようなものじゃないの?

今回の事故は、同省航空・鉄道事故調査委員会の報告書でも、システムの不備や運用の不徹底など複数の要因が指摘された。こうした状況を踏まえ、一審・東京地裁は、個人への刑事責任追及は「相当でない」としていた。

http://www.asahi.com/national/update/0411/TKY200804110284.html

それが原因だとしたら、普段から事故続出なんじゃないの。不徹底が原因だとしたら、どんだけ気の抜けた現場なんだよってことだよね。そうじゃなくて、その人がその辺の本来確認をやらなければならない手順をすっ飛ばしたとしたらものすごい職務怠慢だし、周りは何やっているんだ、という話だよね。
もちろん、ミスは起きる。刻一刻と状況が変わるものだろうから、高度な判断も要求されるだろう。だからといって、今回の判決が「現場に不安と緊張を強いるもの。安全にとって有害」とは思わない。単純な量刑が不当(正直そこまで必要かというと厳しすぎると思う)という訴えであればいいのだけど、緊張を強いられる職場であることは間違いないんだから、そりゃないだろうと思ってしまう。
厳しすぎる、ということはあっても責任は追求されるべきだと思う。フールプルーフなシステムを作ったら突発時に対応できないとか言われそうな気がするしフェイルセーフは無視されたらしょうがない。それとも、どんなに頑張っても事故の直前まで行くほど脆弱な管制システムなんでしょうか。ここの評価ができないからあんまり強いことはいいづらいんだけどね。

この話は医療者にはよくわかる話です。医療者が現在直面している問題そのままと感じています。医療もすべて手作業であり、いかにシステムを張り巡らそうとも必ずミスは生じます。ミスが生じればその過失を問われます。誰も故意にミスを冒そうとしたわけでなく、くり返される膨大な作業量の中での単純ミス、思い違い、結果としての判断ミスなのです。これは絶対には防ぐ事は不可能です。いかにミスに対して厳罰が下されようが完全に防止する事自体がそもそも無理な要求です。
医療は既に刑事罰で処罰する傾向が著明となっています。その結果としてミスは激減したでしょうか、医療レベルが向上したでしょうか、いずれも否です。刑事罰が下されるのを見せ付けられた医師はひたすら防衛医療、萎縮医療に傾きつつあります。刑事罰が発生しやすい職場からはドンドン逃げ出していき、そこへの志望者も激減しています。これに対する批判は盛んですが、人間ならロシアンルーレットを毎日もてあそばなければならない職場はゴメンと考えるのを非難できないと考えます。

2008-04-12

おっしゃりたいことはわかるのですが、ミスはその引き起こした内容と原因に応じて処罰されるべきです。医療問題は高度な専門性を要する技能をそれを(当直医とかが専門じゃないから)持ち得ないのに要求されたり、状況的には適切な措置を結果論によりミスと判断されたり、絶対に助からない患者が死亡したことを医者の責任にされたりするような理不尽さが問題であり、点滴の内容を間違えたような話が問題にされないでいいとは思いません。
僕は医療問題を大きな社会問題と捉え、医者の側の事情を知り、支援して行きたいと考えていますが、医者のミスは起きて当たり前だから処罰はいらんというような考えであれば思いなおさなければならないと思います。理不尽であるところのロシアンルーレットの部分を他の社会問題と同じように語ることで、問題の特殊性を薄め、他の社会問題に直面しているしている人に甘えに捉えられてしまうようでは仕方がありません。

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追記:基本的には言い草が気に入らないのとこの問題の現象を安易に医療問題に適用することは良くないよ、と言いたいわけなので、航空管制システムが今のままで十分とか、そういう風に思っているわけでもないし、責任は追及しなければならないけど、本当に刑事罰が必要なのかどうかは(本文で注記しているように)わかりません。ちゃんと改善しようという姿勢は今まで見せてきたのかな。その辺も気になります。