現代に降臨した恐怖のネット踏み絵「DHMO」の正体

まずはこれをご覧ください。みなさんにはこの違いがわかりますか?

各地の水道水から一酸化二水素が検出されましたw - Togetter
ホルムアルデヒドにあの方々が反応するとこうなる。 - Togetter

いまさら引っ張ってもしょうがないネタなので先に説明してしまうと、一酸化二水素つまりDihydrogen Monoxide、平たく言うとH2Oつまり水ですな。
DHMOはそこに付された「害」を見てもわかる通り、「犯罪者のほとんどがパンを日常的に常食していた」の変種です。ちょっと違うのは、「害」の部分がマジな半面、DHMO(やら一酸化二水素)という表現が非常に誤解を招くものになっていること。ようは、これを見て「マジヤバい変な物質が出てきた!!」って反応して拡散してしまうような人は実際にそこに示されている情報を何一つ咀嚼していない、ということが明らかになるという仕組みなわけですね。
よくできているのは、これが「水」と明記されていたら絶対に騒がないだろうこと。

一方で、塩素と放射性物質が反応してホルマリンが発生した、という話は物質名がこれだけ具体的でも本気で信じてしまう人が多数いるのですね。もう読んでると頭痛くなります。乾いた笑いしか出ない。これを「ありえねー」と一笑にふせる人はそれほど多くはないと思いますが、事実として疑わず飲み込んでしまう、ということが怖いのでありますな。

これを情報リテラシーとして語るのは非常に難しい。XX界で常識と言われてしまうと、XX界に属していないところの自分では判断できないが真実なんだろうと思ってしまう人は一定量でてしまうのは仕方がないことかと思います。さすがに高校レベルの化学をきちんと修めている人にこれが通用するとは思えませんが、実際に高校レベルの化学をきちんと修めている人には出会う方が少ない。

なので、塩素と放射性物質が反応してホルマリンが発生することを「疑う」ことはどのようにすれば身につけられるかというのは難しい問題だと思うわけです。ここでありえねーと笑っている人は、情報リテラシーではなく化学の知識があるだけではないか。

DHMOの話に戻ると、これはアメリカでは議会で規制の決議にまで行きかけたという恐ろしい過去を持っています(水が規制されたらどうなっちゃうんだろう)。どうやったらこれに騙されないで済ませられるのか。もちろん、一回騙された人は二度と騙されない類のものではあります。

考えなくてはならないのは、個別具体的な事例と捉えてしまうと新しいものが出るたびに騙され続けなければならないこと。そうではなく、うまく一般化して「疑う」目線を身に付けさせるというのが大事なんですよね。しかし、それをやりすぎると今度は陰謀論の罠にはまるという…簡単ではありません。

さて、DHMOはある種の踏み絵なんじゃないかと思うわけです。自分の知らない事柄を無批判に真実と受け入れてしまうメンタルについてのね。でも、踏み絵を踏ませるという行為は相手を心の底から棄教させることにはならなかった。DHMOという踏み絵を踏ませることによって、果たして論理性・科学性を大事にするメンタルに転向させることが出来るのか。そもそも踏み絵だって気付かないで怒って終わるだけな気がしてなりませんw

もう一個問題があって。踏ませる側は自分は「こっち側」と思って踏まされている馬鹿どもを嘲笑するわけです。でもネットにはそんな踏み絵はいたるところに転がっていて、DHMOに引っ掛からないくらいで胸を張って生きられるほど簡単じゃなかったりするよね。であるならばDHMOを引っ掛かるものを嗤うというのはそれもまた一種の踏み絵なのかもしれませんね。

とはいえ。嗤わざるを得ないのです。DHMOというジョークが万人に通用するジョークとなるその日まで。