ウェブは社会の当たり前のインフラになり、変容していく

多発したウイルス(というかPC乗っ取り)による脅迫書き込みとそれによる誤認逮捕の件。少しtwitterでも話したけど、しっくりこないことが多い。
今回、逮捕に至った経緯はある程度しかたないという声も散見される。まあ、自分の指紋がべっとりついた包丁が殺人現場に放置されていたようなもので、盗まれたって主張しても証拠がないじゃないか、というような。しかたない面もあるだろう。「誤認」という言葉も一方の当事者からみた言葉でしかない。
といっても、こういうので簡単に逮捕されるようでは正直今の日本の社会ではしんどい。小倉先生曰く、逮捕即解雇する企業はあまりなくて、起訴されてようやくというところが多いという話らしいけど、アニメ演出家の件は起訴されている。
犯罪を取り締まる側からすると、ウイルスにかかったことがないことを証明しなければ逮捕できない、というのでは捜査にならない、ということはあると思う。だから、落とし所はそこではないと一般市民側からも思う。脅迫書き込みなので、それが事実だった場合、ということについての緊急性はあるかもしれない。ただ、事実の疑いがあるから殺人未遂で逮捕ね、というわけにはいかないよね。脅迫書き込みでの逮捕それ自体にはたいてい緊急性はない。特にもう予告が過ぎ去って何もなかった場合。書き込んだPCが割れているんだから、捜査にご協力ください(もちろん犯人だったらあとで逮捕するからな!)ではいけないのだろうか。
前からなんどか主張しているのだけれども、こういうのってやはり市民の側も単に権利侵害だ、とか権力の横暴だ、とか言っている場合じゃないと思うんだよね。社会ってのはある意味一人では生きられないために集まっているものなんだから、犯罪を排除する方向に規律を動かしていくのも一人ひとりの仕事のうちなんだと思う。自由だ権利だってのはその上に初めて成り立っている。
さて、ウェブの世界というのは社会に投げ込まれた新しいインフラだ。まだまだ一般には未知の部分もあるし、でも、利用シーンは際限なく広がっている。このインフラに対する知識と問題点をきちんと全員が把握していくことは必要だよね。期待しているのは、もう少ししたら純粋ウェブ世代が警察にもどんどん入っていくだろうこと。そろそろアホな案件はなくなる一方で、今までだったら無知な警察を笑っていられたような案件でも犯罪の要件を満たしていたらどんどん取り締まられるであろうということもあるだろう。よく考えてみなよ。素人どうしで無断転載は著作権違反でどうのこうのとやりとりする社会だよ。「警察は無知」というのはオールドタイプに対する評価であって、ニュータイプの数が増えてくることによって、素人のやり取り以上の深いレベルで警察力が発揮されることになるのは間違いないんだよ。そのことに対してみんな「どうせ警察」って思ってたりしない?
まあ、そのうち「時刻表ミステリ」よろしく「ハッカーミステリ」が特殊な物語でなく広く人口に膾炙することになったりもするかもしれないし、ウイルス対策ソフトも法的に導入が義務付けられるかもしれない(バーターで、ウイルス感染による他者へ与える損害についての責任が軽減されるかもしれない)。そのくらいの変化がないと、もうやっていけないんじゃないかと思う。

だから、僕たちは既存の規範のもとで物事を考えて、これはできる、あれはダメだ、これは問題だ、人権が、自由が、理念が、というような議論はそろそろ捨てるべき時期に来ているのではないだろうか。ものすごい大きな話だし、すぐにどうこうできるようなものでもないだろうけれども、根本的な考え方から変えて行かないと、警察が誤認逮捕でお茶を濁すような世界から脱却できないんじゃないかな。

本来であれば、こういうのは新しい時代を見ることのできる有能な政財界によってトップダウンで改革されるべきなんじゃないかと思うんだけど、悲しいことに、見渡す限りの老害の山。であるならば、ウェブで変わる世界の新たなる規範はウェブの住人が決めていくしかないのだろう。しかし、実社会に生きる僕たちは既存の規範から脱却できず、パラダイムシフトには至らない。オールドタイプなのかな、とも思う。

最近耳にした話で、昔は復活の呪文というのがあって大変だったんだよ、という話をしたら「写メればいいのに」って言われたというのがあった。たぶん、そのくらいの世代の人たちが新しい規範を作っていくんじゃないかと思っている。
そして、我々は既存の規範のもとでの価値観を守りぬく抵抗勢力になるのだろう。