実名情報公開義務だって?

税金を使ったサービスの受益者には実名公開の義務があるなんて話は始めて聞きました。ホントに?

「この大学で君が手にする利便の大半は税金で賄われている。その受益者たる在学生諸君は過不足ない就学情報を納税者社会に公開する義務を負っていること。そのことを、最初によく理解して、大学の情報社会の成員としてふさわしい行動を取ってください。そうでないと、アカウントの保障ができません」
〜中略〜
こんな具合で普通、大学1年生は「個人情報の保護」という言葉は知っていても「情報公開義務」という社会的責任を1人称の問題で捉えたことは絶対にありません(再入学者などは知っている可能性がありますが)。
〜中略〜
東京大学が制定している「情報公開ガイドライン」には「実名情報公開義務」の条項があります。東大のサーバーから発信するすべての情報には、発信元の個人名が付されていなければならないという大原則です。

http://business.nikkeibp.co.jp/article/person/20080104/144219/?P=3

社会的責任だって?個人情報の保護は法律ですよね。社会的責任ってのは広く言うと道義の問題。ずいぶんレベル感が違う話のように思えます。で、東大の実名情報公開義務。

教育用計算機システムのアカウントを用いてネットワークニュース・WWW等による情報公開をする場合は、少なくとも、以下の条件のもとで行なうことになる。

  • 教育・研究組織に所属する者として
  • 東京大学に所属する者として
  • 国際社会に住む人間として

これらを考えて適切な内容であるかを充分検討してから公開するように心がけたい。条件に抵触する例を以下に示す。

  1. 無名・匿名・偽名で発信するもの

〜以下略〜

www.ecc.u-tokyo.ac.jp [広報] 情報公開ガイドライン

ああ、なんだ。東大のリソースを使うときは東大に相応しいコンテンツを実名付きで発信すべきと言うある種のプロバイダ契約みたいなものですね。別に個人情報を公開せよって言っている訳じゃないですよね。名前と所属だけで。実名情報公開義務っていうのこれ?実名「情報」って実名のこと?
で、これが「その受益者たる在学生諸君は過不足ない就学情報を納税者社会に公開する義務を負っていること」になるのでしょうか。どうもピンと来ません。

これは考えてみれば当然のことです。もしkeio.ac.jp のアカウントで何らかの情報事故が発生すれば、世間からは「慶応のシステムで」「慶大生が」問題を起こしたと言われます。また問題の解決には、少なからざる大学側の管理者に手間をかけさせてしまうでしょう。

http://business.nikkeibp.co.jp/article/person/20080104/144219/?P=1

これは大学のリスク管理の問題であり、個人が個人契約のプロバイダでやることを拘束することではないですよね。

こんな準備をして、「ネットワーク上に残した情報は一般に回収が不可能だから、責任意識を欠く情報は決して残してはいけない。大学のサーバー上にホームページを開設する際には、必ず自分の実名を付し、自身で取れる社会的責任の範囲で情報を発信すること」を徹底して教えるのです。

http://business.nikkeibp.co.jp/article/person/20080104/144219/?P=2

これはそのとおり。それと実名かどうかは直接関係ないにせよ。

東大のように「税金で賄われている大学」を例にこの手の話をすると、これまた決まって「東大は国立大学だからそうかもしれないが、私立大学は違うでしょう?」と質問されます。これも非常に良いポイントです。そしてまた、ここが、この問題とCSR(企業の社会的責任)の接点になってもいるのです。
実は「私立大学」といっても、日本の学校法人であれば、およそあらゆる官費の補助を受けている可能性があります。加えて学校法人は宗教法人と並んで最低税率に抑えられている。「未来を担う若い人の教育のために」と社会から講じられている優遇措置は枚挙に暇がないのです。

http://business.nikkeibp.co.jp/article/person/20080104/144219/?P=4

だから大学のサーバ(以下略
いや、全体的にはいい事書いてあると思うのですよ。しかし、遺憾なことに、「匿名性幻想」というタイトルとは関係ない、組織に所属するものが情報発信する際のリスク管理の話になっています。実名で書いたって社会的な常識を欠いていれば平気で不適切な内容を書くわけです。だけど、まあ多少は抑止力になるし、問題があったら対処しやすい。でも、賢い学生は実名と匿名の使い分けを覚えるだけでしょう。そもそも実名で書けないことを匿名では書けるってのはポジションの問題がまず大きいわけで、当然学内のサーバーからの発信と言うポジションが明確なところで匿名である「必然性は無い」だけですね。
実名匿名問題は、もう少し深遠なものです。