ホワイトカラーと自己裁量

ステーキけんの社長が言い放った言葉(http://www.toyokeizai.net/business/interview/detail/AC/3fc35ce7d89afe3a899df17e9b4e2444/page/4/)はまあ良いとしましょう。うちはずるをして競争に勝ちたいです宣言なので遠からず何か報いがあるとは思いたいところです。
でもって。

だから、ホワイトカラーエグゼンプション(以下WE)のように、労基法の規制を大幅に緩和する政策は、方向性としては正しい。

ただ、そこには各従業員がちゃんと自己管理出来るような裁量が必須となる。有給休暇取得率の異常な低さを見ても明らかなように、日本型雇用制度においては個人の裁量は非常に限定的だ。

Joe's Labo : ホワイトカラーなら、有給休暇を100%消化するのも過労死するのも自己責任

至極まっとうなことを言っているように思えますが、そのあとで

その点、業務委託で裁量と自己管理をセットで与えつつ、それ以外のキャリアパスも残すという井戸氏の方針は(一見すると暴論に見えるかもしれないが)あるべき順序にきちんと沿っている。

倒れる奴は自己責任。それがイヤなら、店長にも管理職にもならなければいい。

この考えは、良くも悪くもこれからの日本の働き方の一つのトレンドになるだろう。

Joe's Labo : ホワイトカラーなら、有給休暇を100%消化するのも過労死するのも自己責任

こう言っちゃってる。えーそうかなー。だって利益を出すのがそれしかないってのは管理職が相対的に安い労働力で働くことの言い換えなんじゃないのかなあ。だから井戸社長の言っている話は筋は通っているけど、正しくない。自己責任と自己裁量ってのはセットになっちゃダメだと思うんだよね。結果を出すなら文句は言わないの反対側が、結果を出せないなら死ぬまで働け、じゃダメなんだよ。業務委託って考え方は、内容が価格に見合っているなら問題無いと思う。でもそれで適正な利益が上がるなら、直営のほうが儲かるんだけどね。それをしないのはそのほうがいろんな意味で楽だからなんじゃないかと思う。コンビニと一緒。

そもそも、倒れるような働き方をしないと店長にも管理職にもなれないという話と、「各従業員がちゃんと自己管理出来るような裁量」ってのは相反しているようにも思えますよね。

ホワイトカラーっていうけど、実際のところ、事務的な仕事っていうのは肉体労働的側面が必ずあるし、接客業それ自体は肉体労働なわけだし、成果=働いた時間になるような局面ではWEなんて有名無実化するよね。

確かに、働き方って難しい。人生において仕事が一番楽しい人にとっては週40時間とかはどうでもいい規制だろうね。でもそれを緩めてしまうと、そう思っていない人への影響がありすぎる。申請制とかにしたところで無理やり申請させられる(暗黙の雇用条件に入れられる)だけで意味ないし。
「私は仕事が生きがいです」みたいな人をどのように遇するのかというのは簡単な話ではないし、そういう人に対して業務委託って形でハードルを外した働き方を提示するってのは確かにありだとは思うんだよね。ぶっちゃけ、SEとかの個人事業主なんてそういうものだよな。だから、けんのやり方の是非は置いといても、議論の余地はあると思う。でも、それが適用できるのはごくわずかな部分だろうし、もっというと、その委託する業務の正当性が常に問われるけど、力関係上どうしても受ける側が無理な契約を飲まされるというケースが続出して結局「裁量労働制とはなんだったのか」みたいな結論になってしまうと思う。結局のところだけど、こういう問題は「突出した能力を持って独立する」レベルの人にしか適用できない話を一般に適用しようとして失敗するんだよね。業務委託契約の妥当性を労基署がチェックできるくらいじゃないと現実的な制度としては成り立たないんじゃないかな。

そこにかかるコストを考えると、多分まともにやったら普通に今の法規のもとで会社を経営したほうが安く上がりそう。コストを下げるのが目的だったとしたら、ずるをせざるを得ない。本当に働く人のことを考えてやりますってのであればよいんだけどね。